(※写真はイメージです/PIXTA)

認知症を発症するということは「法的な死」を意味することをご存じですか? 認知症が進むと、重要な法律行為ができなくなるからです。認知症を患うと「財産凍結」により家族でも預金が引き出せなくなります。さらに、実家も売れない、贈与もできないという事態に陥ります。では、どのような事前対策ができるでしょうか? 税理士向けに相続の講演なども行う税理士・牧口晴一氏の著書「日本一シンプルな相続対策」(ワニブックス)より一部抜粋し、分かりやすく解説します。

相続でもめないコツ。遺言書に記すべきポイント

シンプル相続で重要なのは、もめ事をなくすことです。

 

生前のもめ事は、認知症になって、財産凍結を引き起こし、介護費用や老人ホームの入居一時金をめぐって子どもたちの負担が生じ、さらには、実家の売却ができずに、その維持管理の負担…これを「家族信託」で回避しました。

 

死後のもめ事は、なんといっても遺産分割をめぐるものです。

 

そのうち、一番強力なものが「遺留分」です。「遺留分」とは、相続人の最低限の取り分です。それは「法定相続分の半分」と考えれば簡単です。たとえば、相続人が兄弟2人のケースで、「全財産を長男に相続させる」という遺言書の通り遺産分割をしたときは、兄弟の法定相続分は2分の1ずつですから、その半分、つまり4分の1は弟の遺留分となります。

 

だから弟が「私には最低限の取り分である遺留分がある!」と請求して来たら、これは絶大な力を持っているため、それに従うしかなくなります。しかし、もめ事になるには違いありません。

 

そこで、「遺言書」を書くときには、各相続人の遺留分を配慮して、最低でも「遺留分」を相続させるように書くのがよいのです。

 

別の方法として、生前なら「遺留分の放棄」という手段もあります。結構な手間がかかりますが、「仲良し家族」だからこそ必要なときがあります。

 

ちなみに、「相続の放棄」は、相続が発生してからしかできず、生前にはできません。

 

一方で、「遺留分の放棄」は、生前にしかできません。もっとも、相続が発生した後に「遺留分」を請求しなければ、実質的に放棄したのと同じです。反対に、生前に「遺留分の放棄」をしておくと、相続が発生した後に、「遺留分」の請求はできなくなります。

 

しかし、生前に「遺留分の放棄」をするためには、それに相当するくらいの、生前贈与をしておかないと、家庭裁判所が放棄を認めてくれません。

簡単で安い!仲良し家族なら「自筆証書遺言」がお勧め

遺言書のコツを解説します。

(1)法務局で必ず「保管制度」を利用する

遺言書で、普通に使われるのは、「公正証書遺言」と「自筆証書遺言」です。

 

「公正証書遺言」のコストは10万円以上(第三者の証人2人へのお礼3万円程度×2人と公証人への報酬等は財産額により数万円から)ですが、内容を詳細に検討してくれます。それだけに、頻繁に書き直しはできません。

 

「仲良し家族」では、愛人に全部渡したいとか、隠し子を認知したいとか、イレギュラーなことはなく、多くは簡単なので、お勧めは、「自筆証書遺言」を法務局で「保管」してもらうことで大丈夫でしょう。これで以前は必要だった相続後の裁判所での検認が不要となります。さらに便利なことは、相続が発生した後に自動的に通知がもらえるようにもできます。これで紛失や見つからないというトラブルがなくなりました。

 

費用は3,900円と安いですが、遺言書の最低限の要件の「手書き・日付・押印」と本人確認をしてくれるだけです。だから、どうすると良い遺言になるかは、自分で考えなければなりません。けれども、簡単な質問は無料ですから、できるだけ質問することです。

次ページ遺産分割でもめないために重要なこと

※ 本連載は、牧口 晴一氏の著書『日本一シンプルな相続対策』(ワニブックス)から一部を抜粋し、再構成したものです

日本一シンプルな相続対策

日本一シンプルな相続対策

牧口 晴一

ワニブックス

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