(※写真はイメージです/PIXTA)

新自由主義の転換と働き手への分配重視、さらに家計の負担を減らす政府の消費税減税が必要になるはずですが、岸田流「新しい資本主義」はどこへ向かっているのでしょうか。ジャーナリストの田村秀男氏が著書『日本経済は再生できるか 「豊かな暮らし」を取り戻す最後の処方箋』(ワニブックスPLUS新書)で解説します。

商法改正と会社法で「会社は株主のもの」

■日本のゆがんだ新自由主義

 

小泉純一郎政権のときの2005年、商法が改正されて会社法が誕生しました。それまで「会社はだれのものか」という議論が日本では盛んに行われていて、「会社は経営者のもの」とか「会社は従業員のもの」、はたまた「会社はメインバンク(主力取引銀行)のもの」など、さまざまな論議が展開されていました。それに終止符を打ったのが商法改正と会社法で、そこで貫かれているのは「会社は株主のもの」でした。

 

その結果、経営者に対して経営の見直しを求める株主が目立ってきています。いわゆる、「物言う株主」です。自分のものである会社の経営について、株主が文句を言ったり、経営方針の見直しを迫ったりするのは、当然の権利ということになります。

 

2022年3月、経営難だった東芝の経営陣が、本体から電子デバイス事業を分割して売却する方針を決めました。これに反発したのが、大株主の投資ファンドでした。結局、分割案は見送られ、物言う株主である投資ファンドから取締役まで迎えることになりました。

 

では、それまで物言う株主はいなかったのかと言うと、いました。違った形です。「総会屋」と呼ばれる特殊株主です。かつて株主総会で一般株主の発言はいいようにあしらわれ、すぐに採決にはいって拍手の多さで決まってしまう、いわゆる「シャンシャン総会」でしかありませんでした。

 

筆者が駆け出しの経済記者時代、株主総会前に東京丸の内や大手町の錚々たる大企業や大手銀行に取材に行くと、経営幹部は総会を短時間で前回よりも短く終わらせるよう、秘書室や社長室のスタッフたちに盛んに発破をかけていました。スタッフたちは「総会屋」にカネを渡す「利益供与」を行います。総会で経営トップがその年度の経営計画を説明し終わるや否や、総会屋は大声で「異議なし」を連発し、一般株主の異議を封じました。

 

総会屋はいわゆる反社会勢力とのつながりが深い者が多く、会社側がまとまったカネを差し出さないと、経営陣の不祥事をばらすなどと脅すのです。米欧には、こうした総会屋のような存在はないと言われ、日本独自のようです。古くは、明治35、36(1902、1903)年の新聞にはすでに総会屋と思われるゴロツキの行為が報じられているとも聞きます。

 

戦後、経済復興と高度成長とともに、総会屋の活動も活発化し、暴力団が総会屋稼業に進出するようになり、総会屋と暴力団との関係が深まりました。1970年代半ば以降には、総会屋の数は8000人を超えたと言われ、前述したような株主総会の有名無実化がすすみます。

 

そのため、1981年に商法の一部が改正されました。利益供与の禁止です。

 

具体的には、「形骸化した株主総会のあり方を是正しその活性化を図るため、企業に寄生する総会屋等を根絶する」ことを目的として、いわゆる株主総会等の発言や議決権行使等に関し、不正の請託を受けて財産上の利益を収得したり、あるいは反対に利益を供与したりする行為に対する罰則の強化(商法第四九四条)や、株主の権利行使に関し、財産上の利益供与の禁止規定の新設(商法第四九七条)です。

 

ところが、日本経済は1980年代からのバブル、1990年代バブル崩壊で、そこに付け入る総会屋の動きは盛んで、大企業のほうも弱みを衝かれてはかなわないとばかりに、利益供与をやめられません。総会屋に対する利益供与が摘発され、トップが辞任に追い込まれます。

 

代表的なのは1992年のイトーヨーカ堂、1993年のキリンビール、1996年の高島屋、1997年の味の素、野村證券などが挙げられます。1997年5月の第一勧業銀行事件は同行が総会屋に総額460億円を提供したことで、頭取経験者を含む11名が商法違反で逮捕され、翌月には元会長が自死する悲劇になりました。

 

筆者は真面目そのもので紳士的だった元会長を知っており、この経営者が巻き込まれた闇の深さにがく然としたものでした。

 

これら一連の事件を踏まえて、反社会的勢力排除のための法規制は一層強化され、企業や業界団体が反社会的勢力との取引リスクを回避するガイドラインの導入がすすみます。社会から暴力団を全面的になくそうとする2001年制定の「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律」(暴対法)もその延長上にあります。

 

しかし、いまでも総会屋は根絶されておらず、反社会勢力への利益供与も皆無とは言えないようです。

 

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本連載は田村秀男氏の著書『日本経済は再生できるか 「豊かな暮らし」を取り戻す最後の処方箋』(ワニブックスPLUS新書)より一部を抜粋し、再編集したものです。

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田村 秀男

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