給与額は増えていても実感がない、納得の理由
2月24日、厚生労働省は『毎月勤労統計調査 令和4年分結果確報』を発表した。
調査結果によれば、現金給与総額は32万5,817円と、前年比より2.0%上昇。雇用形態別では、短時間労働者以外の「一般労働者」が42万9,051円で前年比2.3%上昇、短時間労働者の「パートタイム労働者」が10万2,078円で前年比2.6%上昇という結果だった。
業種別にみると、回復が大きかったのは「飲食サービス業等」の12万8,899円で、前年比9.9%上昇。以下、「運輸業、郵便業」が5.3%、「鉱業、採石業等」が4.9%、「学術研究等」が4.2%、「不動産・物品賃貸業」が3.9%、「建設業」が3.7%と続いた。
前年比2.0%アップとなった現金給与総額を詳細に見ていくと、「きまって支給する給与※1」が前年比1.4%、「所定内給与※2」が1.1%、「所定外給与※3」が5.0%、「特別に支払われた給与※4」が4.6%、それぞれ上昇した(図表1)。
これを見る限り、給与のベース自体があがったのではなく、コロナ禍からの回復過程における残業時間の増加や、業績回復による特別賞与などが、全体を押し上げた形だといえる。
※1 労働契約、団体協約あるいは事業所の給与規則等によってあらかじめ定められている支給条件、算定方法によって支給される給与のことであって、所定外給与を含む
※2 きまって支給する給与のうち所定外労働給与以外のもの
※3 所定の労働時間を超える労働に対して支給される給与や、休日労働、深夜労働に対して支給される給与のこと。時間外手当、早朝出勤手当、休日出勤手当、深夜手当等
※4 調査期間中に一時的、または突発的理由に基づいて、あらかじめ定められた契約や規則等によらない労働者に現実に支払われた給与や、あらかじめ支給条件、算定方法が定められていても、その給与の算定が3ヵ月を超える期間ごとに行われるもの
また、物価の影響を考慮した「実質賃金」は99.6(2020年平均を100とした場合)で、前年100.6から1.0%減と、2年ぶりのマイナスとなった。賃金の実質水準を算出する際の指標である物価(持ち家の家賃換算分を除く総合指数)は3.0%上昇、賃金の伸びを上回った。
この状況では、「給与は増えている実感が持てない」「給与は増えているのに生活が厳しい」という感想が出ても当然ではないだろうか。
「資産所得倍増プラン」の効能は?
令和5年2⽉24⽇の「物価・賃金・生活総合対策本部(第7回)議事次第」の経済産業省資料によれば、「賃上げの機運醸成に向けた⾞座の実施」として、下記のような企業の取り組みが紹介されている。
●アイリスオーヤマ株式会社 ⼤⼭ 晃弘 代表取締役社⻑
→ 過去3年間5%の賃上げを実施。今年も5%の賃上げを決定。
●三菱⾃動⾞⼯業株式会社 加藤 隆雄 代表執⾏役社⻑ 兼 最⾼経営責任者
→ 昨年末に10万円のインフレ⼿当を⽀給(パート等も7万円)。
●株式会社ミキハウス ⽊村 皓⼀ 代表取締役社⻑
→ 昨年定昇2%、ベア10%で計12%の賃上げを実施。
●⽇揮ホールディングス株式会社 佐藤 雅之 代表取締役会⻑
→ ベアを含め、約10%の賃上げを検討。
●⽇本⽣命保険相互会社 清⽔ 博 代表取締役社⻑ 社⻑執⾏役員
→ 全国約5万⼈の営業職員について、約7%の賃上げを検討。
●株式会社ニトリホールディングス ⽩井 俊之 代表取締役社⻑ 兼 COO
→ 19年連続での賃上げを実施。今年も4.5%の賃上げを検討。
●ロート製薬株式会社 杉本 雅史 代表取締役社⻑
→ 昨年⼈事制度の⾒直しと合わせ約7%の賃上げを実施。
また、賃上げを含む中⼩企業に対する⽀援措置の進捗状況についても報告がなされている。
「失われた30年」の間、日本人の賃金は世界の先進各国との間に大きな差をつけられた。数字的には給与が上がっているものの、それすら悲しいほどわずかなパーセンテージでしかなく、給与の上昇を体感できる日が来るのか、明るい見通しは持ちにくい。
閉塞感漂うなか、岸田総理肝いりの政策としてたびたび話題となる「資産所得倍増プラン」だが、その効能はどうか。
家計金融資産2,000兆円といわれるものの、その半数が現預金であり、株式・投資信託・債券などに投資をしているのは244兆円、投資家数は約2,000万人に留まっている。また、投資による資産形成が広まっている欧米では、たとえばアメリカの場合、20年で家計金融資産が3.4倍に、イギリスでは2.3倍になるとされているものの、日本は1.4倍程度に。そのため、現在1年で15万円ほどの資産所得を倍にしようと目論んでいる。
計画の柱とされているのが、以下の7つだ。
①家計金融資産を貯蓄から投資にシフトさせるNISAの抜本的拡充や恒久化
②加入可能年齢の引上げなどiDeCo制度の改革
③消費者に対して中立的で信頼できるアドバイスの提供を促すための仕組みの創設
④雇用者に対する資産形成の強化
⑤安定的な資産形成の重要性を浸透させていくための金融経済教育の充実
⑥世界に開かれた国際金融センターの実現
⑦顧客本位の業務運営の確保
せっかくのプランなのだが、株価が持続的に続いていくことが前提となっている点、投資に回す余裕がある人たちに限定的である点などが批判の対象に。政府の注力とは裏腹に、国民は冷ややかであり、浸透しているとはいいがたい。
給料も上がらず、世界的な物価高のあおりを受け、ひたすら進展する少子高齢化…。日本には複数の難題が立ちふさがっている。ついには、これら難問に対処しきれなくなった政府が「自己責任」「自助努力」として国民を突き放す事態もあるかもしれない。
厳しい状況下の日本で生き抜くには、そろそろこのタイミングで、自身の生活を守るための「自発的な行動」が必要となるのではないだろうか。
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