「悪いインフレ」の特徴とは
やすお:では、悪いインフレは?
永濱:一言でいえば、さっきの反対。「物価上昇が賃金上昇を上回ってしまう」インフレのことです。「コストプッシュインフレ」といいます。
悪いインフレでは、景気がまったく良くないのに、物価が上がっていきます。国内で代替できない食料やエネルギーが上がってしまうのが良い例です。
企業は仕入れ価格の上昇分を商品価格に上乗せしないと売っても損するので、価格に転嫁せざるを得ません。とはいえ、景気が良くないなかで仕入れ価格の上昇分を丸ごと価格に転嫁したら、売れなくなりますよね。
やすお:今、まさにぼくが働いている会社でもそうなっています。原料が値上がりしているので値段を高くしたいのですが、なかなかそうもいかない…。
永濱:やはりそうですよね。企業は売れなくなったら困るので、仕入れ価格の上昇分を十分価格に乗せられません。結果、企業は儲かりにくくなるのです。
すると、その会社で働いている人のお給料も増えにくくなる。下手すると、減ります。となると、購買力が下がるので需要が落ちて、モノが売れなくなる。すると、ますます企業が儲からなくなる…。このような悪いサイクルに入ってしまうのです([図表2])。
日本、アメリカ、EUは「良いインフレ、悪いインフレ」?
やすお:それは最悪…。今の日本はどちらなのでしょうか? なんとなく悪いインフレのような気が…?
永濱:はい、もう100%「悪いインフレ」ですね。
最近、値段は同じだけれども、商品の中身を減らす「ステルス値上げ」がよく言われます。表面上の値段は上がらないんだけれど、中身がシュリンク(縮小)しているので、実質的に値上げしている。よってこれを「シュリンクフレーション」ともいいます。
やすお:確かに最近、お菓子を食べていて「なんか中身が減ったな」と感じることがありますね。アメリカはどうなんでしょうか? 良いインフレですか。
永濱:なんともいえません。アメリカは、良いインフレと悪いインフレが混在しているんです。
アメリカは景気がいいので、国内の需要と供給で見ると、需要が超過しているんですね。すなわち、経済が過熱している国なので、良いインフレの面もあります。
やすお:ディマンドプルインフレ、ってやつですか。
永濱:その通りです。日本のように需要が不振の国では、モノの値段が上がると負担が増えるから節約に向きがちです。
一方で、アメリカのように需要が旺盛な国は、モノの値段が上がると「もっと上がる前に前倒しして買おう」となります。