円高・円安は、消費者にとってどのような影響を与えるのでしょうか。いままで通り頑張って働いているのに生活が苦しくなってきた会社員の「円やすお」氏と、エコノミストの「永濱利廣」氏とともに、円高・円安が日本経済に与える影響について見ていきましょう。
日本の購買力は、「50年前」まで衰退
やすお:正直、一生活者としては、円安がプラスに働いている感じがしません。物価が上がっているのに給料があまり上がっていないので、生活が苦しくて。最近、うちの食卓でも肉が減らされていまして…(泣)。「円安が日本を貧しくしている」「今の円安は悪い円安だ」という話も聞きます。
永濱:「円安が日本を貧しくしている」という議論は確かに出ていますね。
やすお:それは本当なんですか?
永濱:日本人の国際的購買力は、大幅に下がっています。なんと50年前の水準まで下がってしまいました。
やすお:ええ! 50年前って、1970年代じゃないですか…。
永濱:ただ、円安がすべての原因ではありません。
先ほども述べたように、円安ではなくて、新型コロナウイルスやロシアのウクライナ侵攻によって原油価格や輸入品の値段が上がっていることが、背景にあります。日本を貧しくしている本当の原因は別のところにあります。
それは、長い間、円高が放置されたことです。それによって、日本の経済構造が円安の恩恵を受けにくくなってしまったのですね。
円安の恩恵を受けにくい「構造の罠」
やすお:円高の放置ですか…。もう少し詳しく伺っても良いですか?
永濱:話は30年前までさかのぼります。やすおさんは、「失われた30年」って聞いたことはありますか?
やすお:日本経済が30年停滞しているって話ですよね? つまり、ぼくは生まれてこのかた不況しか体験していないってことです。
永濱:残念ながら、そうですね。日本はバブル崩壊後、リーマンショックの後にアメリカが取り組んだような積極的な金融・財政政策でデフレを回避し、経済を早期に立て直すべきでしたが、デフレを放置しました。
これが、長期の経済停滞に喘(あえ)ぐ「デフレスパイラル」のもととなり、円高を招きました。
さらに、アベノミクスが始まる前の2000年代後半から2010年代前半にかけて、日本は1ドル=70~80円台の円高の状態にありました。なぜかといえば、リーマンショック後、アメリカやEUは量的緩和政策※を行ったのに対し、日本はそこまで踏み込まなかったからです。
※ 金利を下げるだけでなく、お金の量を増やすことで景気浮上を図ろうとする金融政策
ここでも、デフレを克服するような政策をとるべきなのに、やらなかった。
この状態を放置していたことで、何が起きたか。やすおさん、わかりますか?
やすお:(デフレってなんだっけ? …後で聞くか)え、すいません、なんでしたっけ…??