円高・円安は、消費者にとってどのような影響を与えるのでしょうか。いままで通り頑張って働いているのに生活が苦しくなってきた会社員の「円やすお」氏と、エコノミストの「永濱利廣」氏とともに、円高・円安が日本経済に与える影響について見ていきましょう。
「物価」と「個別価格」の違いを知ろう
永濱:為替を動かす大きな要因の一つは、「インフレ率格差」です。
やすお:ちょっと待って! 正直よくわかりません! まず、インフレって何でしょうか?
永濱:いいですね。わからないことを、「わからない」と言えるのは大事なことです。実際に、インフレとデフレはわかっているようでわかっていない社会人は多いと思います。
実際、日本経済が長期低迷に見舞われ、「失われた30年」を招いてしまったのは、デフレが大きな要因です。それを理解するためにも、ここでおさらいしておきましょう。
やすお:ふう…助かります!
永濱:まず、インフレとは、インフレーション(Inflation)の略。端的に言うと、物価が上がり続けて、お金の価値が下がり続けることです。
そもそもの話として、インフレやデフレを考える場合は、物価と個別価格は分けて考える必要があります。
やすお:物価と個別価格…、それって同じじゃないんですか?
永濱:違います。ガソリンの価格が上がっているとしましょう。これはガソリンの価格が上がっているだけで、物価が上がっているとは言えません。これだけではインフレとは言えないのです。
物価は、我々が購入するいろいろな商品やサービスのバスケット全体の値段が上がっているか下がっているかを見るんですね。「私たちが普段買っているモノやサービスを総合した値段」というのはそういう意味です。
「良いインフレ」と「悪いインフレ」
永濱:さて、インフレの説明に話を戻しましょう。インフレには良いインフレと悪いインフレの2種類があるのをご存じですか?
やすお:知りませんでした。良い悪いがあるんですね。良いインフレとはなんでしょうか?
永濱:一言でいえば、モノやサービスがたくさん売れることによって値段が上がることです。需要が旺盛で物価が上がるので、「ディマンドプルインフレ」とも言います。
良いインフレのもとでは、需要が旺盛なので売るモノやサービスの値段を上げても売れるため、企業が儲かりやすくなります。
すると、そこで働いている社員の給料が増えやすくなります。消費者は物価が上昇することで生活費が増加しますが、それ以上に給料が上がれば、ますます商品を買うようになります。
すると、商品がたくさん売れて企業が儲かる…という好循環が起きて、景気が良くなるのです([図表1])。
やすお:それは、いいですね。
永濱:ただ、物価が上昇しても給料が上がらないと、物価上昇を下支えできないので、購買力が下がってしまい好循環には入れません。賃金の上昇が物価上昇を上回ることが、良いインフレの条件です。