(※写真はイメージです/PIXTA)

「争族」と呼ばれる相続争い。巻き込まれてしまった場合、どう対応すればよいのか。また、これから相続対策をする場合にも、「争族」のリアルと転ばぬ先の戦略をぜひとも知っておきたい。本連載では、弁護士 依田渓一氏の著書『負けない相続』同書「物語編」の3つのエピソードの中から、「地主である父の遺言書に従えば何ももらえなくなってしまう、自称バンドマンの純二」を主人公としたストーリー『遅咲きのスミレ』を紹介。本稿では、遺言の取り分では少な過ぎる場合に押さえておくべき5つの重要ポイントについて、同ストーリーに基づく解説編を一部抜粋して転載する。

ポイント③  遺留分侵害額請求は1年過ぎたらできなくなる

遺留分侵害額請求権は、相続の開始および遺留分を侵害する遺言・贈与などがあったことを知ったときから1年間行使しないと、時効によって消滅する。また、相続開始時から10年を経過した場合も消滅する。

 

そのため、遺留分を侵害された者は、遺留分侵害額請求をするのであれば速やかにこれを行う必要がある。

 

また、このような期間制限があることから、期間内に遺留分侵害額請求を行ったことを証拠化する必要があり、後日その有無が争いになるような方法(口頭や電話など)で行うことは適切ではない。

 

『遅咲きのスミレ』の話の中で冴羽が内容証明郵便で遺留分侵害額請求の通知を行っていた理由はここにある。

ポイント④  遺留分侵害額請求は、遺留分侵害額の計算方法がカギとなる

遺留分侵害額請求をめぐる攻防の構造についてご理解いただくためには、まず遺留分侵害額の計算方法について説明する必要がある。

 

なぜなら、遺留分侵害額請求をめぐる攻防は結局のところ、遺留分侵害額を大きく算出しようとする攻撃側と、小さく算出しようとする防御側の戦いであり、遺留分侵害額の計算方法がカギとなるからである。

 

そして、遺留分侵害額の計算方法は次の図のとおりである。

 

 

遺留分侵害額の計算方法を踏まえて、遺留分侵害額請求をめぐる攻防の構造は次のとおりとなっている。

 

防御側の主要な反論は、次の図のとおり、①時効消滅を主張する、②遺産中の不動産・非上場株式の評価を低く主張する、③攻撃側が受けた生前贈与(贈与・遺贈・特別受益)を主張する、の3つに集約される。

 

逆に攻撃側は、❶遺産中の不動産・非上場株式の評価を高く主張する、❷防御側が受けた生前贈与を主張することとなる。

 

 

なお、攻撃側が受けた生前贈与については期間制限なしとされている一方、防御側が受けた生前贈与については、防御側が相続人の場合は原則10年以内、相続人以外の場合は原則1年以内という期間制限がある。

 

これらの視点とは別に、防御側が遺留分侵害額の早期の支払いを行うことと引き換えに攻撃側が2〜3割程度の減額に応じることもある。攻撃側としても、防御側が徹底的に争った場合、時間*5・労力・費用がそれなりに生じてしまうため、2〜3割程度の減額を行ってでも合意により確実に支払いを受けたほうが合理的という場合も少なくないのだ。

 

加えて、防御側が判決確定後も支払いを拒絶する場合には、強制執行まで必要になってしまう。

 

*5:訴訟の場合、判決に至るまでに一定期間かかる(現状、民事訴訟は第一審段階で1年から1年半程度を要していることが多い)し、控訴審まで移行すればさらに時間がかかってしまう。

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負けない相続

負けない相続

依田 渓一

中央経済社

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