(※写真はイメージです/PIXTA)

「争族」と呼ばれる相続争い。巻き込まれてしまった場合、どう対応すればよいのか。また、これから相続対策をする場合にも、「争族」のリアルと転ばぬ先の戦略をぜひとも知っておきたい。本連載では、弁護士 依田渓一氏の著書『負けない相続』「物語編」の3つのエピソードの中から「地主である父の遺言書に従えば何ももらえなくなってしまう、自称バンドマンの純二」を主人公としたストーリー『遅咲きのスミレ』と、その解説を一部抜粋し、紹介する。

弁護士「1年経ったら何ももらえなくなります」

純二は、柄にもなく法律事務所なんかに来てしまったことを早くも後悔していた。

 

ライブ用の勝負服でキメてきたつもりが、霞が関界隈ではすっかり浮いているし、対面した冴羽は兄の秀一と完全に同じ種類の人間であるように思えた。

 

そんな純二の後悔をよそに、冴羽は熱心に説明する。

 

「人は誰でも好きな遺言を書くことができます*1。とはいえ、極端に偏った遺言が書かれてしまうと、亡くなった方に経済的に依存していた相続人がたちまち困窮してしまうといった事態も起こり得ます。

 

例えば、亡くなった方がすべての遺産を愛人に取得させるという遺言を作っていた場合、亡くなった方の奥さんはいきなり住む家もなくなり文字どおり路頭に迷ってしまうおそれがあります。そのため民法は、遺留分といって、相続人であれば最低限遺産からもらえるべき割合を定めているのです。

 

遺留分は多くの場合、法定相続分の2分の1とされています*2

 

本件では、相続人はお母様とお兄様と純二さんの3人ということで、純二さんの法定相続分は4分の1ですから、純二さんが最低限もらえる割合、つまり遺留分は4分の1×2分の1=8分の1です。

 

お父様の遺言には全財産をお兄様に相続させると書かれているようですので、純二さんの遺留分はすべて侵害されているわけです。したがって、遺産の8分の1に相当する額の請求ができることになります」

 

 

冴羽はご丁寧に図まで書いてくれたが、難しい話は大の苦手だ。思わず面倒くさいという気持ちがわいてくる。

 

「これって少し考えてもいいんですか?」

 

「1、2週間くらいは考えていただいて結構です。でも、もうお父様が亡くなってから半年近く経っていますよね。遺留分の主張は、原則として相続が発生してから1年間しかできないことにご注意下さい」

 

「1年経つとどうなるんですか?」

 

「1年経つと遺留分の主張はできなくなり、保険金以外何ももらえないことが確定してしまいます」

 

そんなの絶対に困る。純二は、自分の性格からしてこの話を持ち帰れば結局何か月も放っておくことになるのが分かっていたから、その場で冴羽に依頼することにしたのである。

 

*1:これを「遺言自由の原則」という。

*2:例外として、直系尊属(父母や祖父母)のみが相続人となる場合は法定相続分の3分の1とされ、それ以外の場合には法定相続分の2分の1となる。

次ページついに遺言の中身が明らかに
負けない相続

負けない相続

依田 渓一

中央経済社

▼相続紛争の起承転結が小説で分かります▼ 相続の悩みを抱える3人の依頼者が、敏腕弁護士・冴羽のもとを訪れた。 子沢山の妹に実家を追い出されそうな直子、実家も賃貸マンションも弟たちには絶対に譲りたくない光代、遺…

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録