冴羽が秀一に、遺留分侵害額請求を行う旨を記載した内容証明郵便*1を送ると、しばらくして秀一が依頼したという海原弁護士から受任通知が返ってきた。話し合いで解決を求めるとの内容であるという。
ここで困ったことに、冴羽が海原との面談に、純二も同行してくれないかと冴羽が言ってきた。
事件の進み具合が理解できていないとよくないからだそうだ*2。親切で言ってくれているのは分かるが、正直ちょっと面倒くさい。とはいえ、無職の純二に冴羽の誘いを断る口実などあるはずもなく、仕方なく付いていく羽目になったのである。
兄の弁護士「1億円で手を打ってくれないか」
純二は人生で初めて、弁護士会館という建物に足を踏み入れていた。名前も初めて聞いたし、弁護士専用なのかと思ったが、ちょっとしたレストランフロアもあり、そこへは誰でも入れるようだ。
9階の待合室で海原を待つ間、冴羽も海原も第二東京弁護士会に所属しているからここを利用することにしたと、冴羽が話していた。
その説明はよく分からないが、待合室の眼下には日比谷公園が広がり、少し遠くに目をやると帝国ホテルやペニンシュラホテルが見え、悪くない眺めだった。
海原が現れると、海原と冴羽は名刺交換をすませ、純二を連れて面談室に移動した。
2人の弁護士は早速何やら高度な話し合いをしていたが、海原が、話し合いで解決したいと思っていること、遺産の中には現預金が6000万円しかないが、純二が受け取る1000万円の生命保険金とは別の、秀一を受取人とする達郎の生命保険金4000万円があるから、それらを合わせた1億円を純二に対して支払うことで手を打ってもらえないかと海原が提案していることは分かった。
冴羽は、その金額での解決は難しいと、即座に回答していた。
「海原弁護士の本日の提案は受け入れられるものではありませんでしたが、彼とはある程度前向きに話し合いができそうなので、引き続き継続的に面談を行うこととしましょう」
帰り際に冴羽がそんなことを言っていた。純二の霞が関通いはもうしばらく続きそうだ。この頃にはもう、官庁街に対するアレルギーはほとんど消えていた。
*1:いつ、いかなる内容の文書が誰から誰あてに差し出されたかということを、郵便局が証明する書留郵便のこと。期間制限がある行為について、その期間内に行ったことを証明するために使用されることが多い。
*2:事案の種類や弁護士の考え方などにもよるが、依頼者自身の理解を促すために面談や裁判所手続に依頼者を同行させることも珍しくない。