(※写真はイメージです/PIXTA)

「争族」と呼ばれる相続争い。巻き込まれてしまった場合、どう対応すればよいのか。また、これから相続対策をする場合にも、「争族」のリアルと転ばぬ先の戦略をぜひとも知っておきたい。本連載では、弁護士 依田渓一氏の著書『負けない相続』同書「物語編」の3つのエピソードの中から、「地主である父の遺言書に従えば何ももらえなくなってしまう、自称バンドマンの純二」を主人公としたストーリー『遅咲きのスミレ』を紹介。本稿では、遺言の取り分では少な過ぎる場合に押さえておくべき5つの重要ポイントについて、同ストーリーに基づく解説編を一部抜粋して転載する。

ポイント① 遺言書には種類がある

遺言には、大きく分けて次の3種類が存在する。

 

Ⅰ. 公正証書遺言:公証役場で公証人が作成する遺言

Ⅱ. 自筆証書遺言:本人が原則として手書きで作成する遺言

Ⅲ. 秘密証書遺言: 遺言内容を秘密にしたうえで遺言書を作成し、公証人や証人に封印した遺言書を提出して遺言証書の存在を明らかにする遺言

 

相続の現場で登場する遺言はほとんどの場合、Ⅰ. 公正証書遺言またはⅡ. 自筆証書遺言である。

 

Ⅰ. 公正証書遺言は、公証役場を利用するための手数料*1が発生するが、遺言者が本人であるか、意思能力があるかを公証人が面談のうえ確認するため、別人が偽造したとか、全く意思能力のない者が作成したという可能性はかなり低い。したがって、公正証書遺言がある場合は、遺言の有効性が争いになることはあまりない。

 

作成された公正証書遺言の原本は公証役場に保管されるほか、遺言書の内容は電磁データとして別所で保管される。遺言者の他界後、相続人が一定の書類等(亡くなった方の戸籍謄本、当該相続人の戸籍謄本および本人確認資料など)を公証役場に持参すれば、亡くなった方が公正証書遺言を作成していたかどうか教えてくれるとともに、作成していた場合にはその謄本を交付してくれる。

 

Ⅱ. 自筆証書遺言は、一定の形式に沿って自分で書く遺言書であるから、作成のための手数料は特段発生しない。しかし、誰も遺言作成時の本人確認を行わないため、当該遺言書が偽造でないか、遺言者は遺言作成時に認知症などにより意思能力がなかったのではないかといった点が争われることが多い。

 

また、遺言書が誰にも発見されないままになってしまうとか、誰かにより破棄・隠匿されてしまうという危険性もある*2。このような理由から、専門家が関与する相続対策の大部分では公正証書遺言が利用されている。

ポイント② 自由な遺言にも侵せない、遺留分の存在

本来、人は自由に自分の財産を利用・処分することができるから、遺言に関しても好きな内容にしてよいはずである。しかし一方で、相続人が亡くなった方に経済的に依存している場合もあり、そのような相続人をある程度保護する必要もある。

 

そのため、民法は、亡くなった方の遺産についてその一定割合を一定の相続人に保障しており*3、その一定割合分の遺産を遺留分という。

 

特定の相続人に集中的に財産を取得させる遺言の多くは、他の相続人の遺留分を侵害していることが多い。その場合、遺留分を侵害された相続人は財産を集中的に取得した相続人に対し、遺留分侵害額に相当する金銭を支払うよう請求することができる*4

 

これを「遺留分侵害額請求」という。

 

*1:遺産の額や遺言の内容によって異なるが、遺産が1億円の場合、5万円強から10万円強程度となる。

 

*2:なお、自筆証書遺言であっても、法務局における自筆証書遺言保管制度を利用する方法もある。この場合、数千円の手数料を支払うだけで法務局が遺言作成時の本人確認を行ってくれるし、遺言書が破棄・隠匿される危険性も回避できる。もっとも、法務局は遺言者の意思能力の確認までは行わないため、この方法では遺言者の意思能力の有無に関する争いを未然に防ぐことは難しいと考えられる。

 

*3:民法1042条に規定されている。

 

*4:なお、平成30年度民法改正前は「遺留分減殺請求」という名称であり、遺留分相当額の金銭を支払うよう請求する制度ではなく、遺留分を侵害する贈与や遺言について、遺留分を侵害する範囲でその効力を失わせるという制度であった。

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負けない相続

負けない相続

依田 渓一

中央経済社

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