少しでも多くの遺留分を取る方法
純二は、父の公正証書遺言の謄本を目の前にし、逆上していた。
なにが最後にしてやれる親らしいことだ。なにが根は優しい良い子だ。ガキ扱いしやがって。今更親の都合で勝手なことを言い出すな。責任を感じているなら最後まで責任を持てってんだ。それらしいことを書いてるけど、結局は出来の悪い俺に財産をやりたくなかっただけなんだろ。
純二は腹の中でありったけの悪態をついた。そして、秀一からしっかり財産を取り返すよう冴羽に念押しした。
「先生、手加減せずガンガンやっちゃって下さい」
冴羽はうなずき、遺留分を主張する場合のポイントについてホワイトボードを使って説明し始めた。
「遺留分侵害額請求によって請求できる金額は、2つの計算式によって求められます。基本的には、計算式(1)のとおり、『遺留分算定の基礎となる財産額』に『遺留分割合』をかけ、そこから遺留分侵害額請求をする方が取得した財産や特別受益を引きます。
そして、『遺留分算定の基礎となる財産額』をどのように計算するかといえば、計算式(2)のとおり、亡くなった方の財産に相続人や第三者に対する生前贈与を加算するのです。
この2つの計算式を組み合わせて本件にあてはめると、お父様の遺産に、純二さん以外の方への生前贈与があればその金額を加算して、そこに純二さんの遺留分割合である8分の1をかけ、そこから純二さんがこれまでお父様から得ていた財産や特別受益を引いた金額が、純二さんの遺留分侵害額となります」
そんなややこしいことを言われても理解できる気がしなかったが、冴羽は説明を続ける。
「ちょっと分かりにくいと思われているかもしれませんが、計算式はともかく、ポイントだけは押さえておきましょう。遺留分侵害額請求を有利に進めるためのポイントは主に2つです。1つ目は遺産をできるだけ高く評価すること。これは、先ほどの計算式(2)の『被相続人の相続開始時財産額』を大きく評価するということです」
そう言って冴羽は、ホワイトボードに書かれた文字を丸で囲んだ。
「2つ目は、亡くなった方から相手方が生前に受けた贈与がないかを探して、もしあれば必ず主張することです。これは同じく計算式(2)の『相続人に対する生前贈与額』の部分の話です」
冴羽は別の文字も丸で囲んだ。
「これらのポイントを押さえながら、交渉を進めていきたいと思います」
【次回予告】> 兄の弁護士との対決! 第3回へ続く( 3月8日配信 )
依田 渓一
三宅坂総合法律事務所
パートナー弁護士
東京大学法学部・東京大学法科大学院卒。第二東京弁護士会所属。
相続・事業承継・不動産分野を中心業務とする。
モットーは、「相談してよかった」と思っていただけるよう、期待の先を行くきめ細かな対応と情熱で、依頼者の正当な権利行使に向けて全力を尽くすこと