夫が亡くなったら「嫌いなはずの家」に舞い戻り…
寺門:この状況下でも、相続手続きをしないといけないわけですが、祥子さんとはどんな話し合いになっているのですか?
昌弘:それが、嫁はとんでもないことを言ってきたのですよ。「今まで私は感情的になっていましたが、哲さんを失って本当は哲さんのことが好きだったのに気づきました。仕事が忙しくて構ってもらえなかったのが寂しかっただけ」と。どの口が言うのですかね!
寺門:まさか自宅に戻るとか言い出したんですか?
昌弘:そうなんです。というか、もういますよ。嫌いなはずの家に。「家にいると哲さんを思い出せる」とか噓八百でしょう。売るんじゃないですか? そのうち。
寺門:はー! そう思ってしまいますよね。哲さんは自宅以外にも資産はありましたか?
昌弘:あるでしょう。でも嫁は教えてくれない。まさか、哲がくも膜下出血で突然死するなんて考えてもみませんでした。これは離婚調停と仕事のストレスのせいですよ、絶対に!
離婚調停では、専業主婦の妻と財産分与で揉めていた
寺門:想定でもいいのですが、どんな財産内容か見当はつきますか?
昌弘:あの子は子どもの頃から貯金が好きでした。だから預貯金は相当あるんじゃないかな。自宅を建てた時に、「年齢で引っかかるんじゃないかと心配したけれど、住宅ローンが多く組めたから貯金はそんなに取り崩さずにすんだ」と言っていましたからね。あと、勤務先の持株会に入っています。亡くなる少し前に、「持株会の奨励金が入ったから、寿司食べに行こう」と、妻と私を誘ってくれました。
寺門:いい息子さんでしたね。
昌弘:本当に……。ほかには投資信託もやっていましたね。老後資金問題に関するテレビ番組を私の家で観ていた時に、投資信託が取り上げられて、「投資は怖いぞ」と私が言ったら、「今、こういうのは普通なんだよ、父さん」と言うから、「お前も投資しているのか?」と聞いたら、「当たり前じゃないか」と言っていました。
寺門:相当な資産がありそうですね。
昌弘:恐らく。嫁は専業主婦でしたから、調停で財産分与でも揉めていたようですよ。それと……。とんでもないことまで言い出したんですよ。
「墓を新しく建てるから、遺骨は渡さない」だと…?
寺門:どんな話ですか?
昌弘:墓を新しく建てるから遺骨を渡さないって。うちには先祖代々のお墓が青森にありましてね。丘の上にあって、海が眺められるその場所が哲は好きで。そこに埋葬してあげたいんですよ。嫁がお墓を建てるなんて、噓かもしれない。今時の子ですから、供養なんてしないでしょう。
寺門:あ〜! 先日、弁護士さんから、遺骨をめぐる争族があると聞きました。まさにそのケースですね。祭祀財産問題ですか……。今後、昌弘さんのお墓の管理はどなたがされるのですか?
昌弘:娘がいましてね。婿は次男なんですよ。だからお墓が必要らしくて。ゆくゆくは娘家族に管理してもらい、両家の墓にしたいと思っています。
寺門:なるほど。お墓に行くと「〇〇家、△△家の墓」と、苗字が並んでいるお墓がありますよね。今回は問題が多岐にわたっていますし、祥子さんが財産を開示しないことも含めて、弁護士さんに相談しましょう。
昌弘:お願いします。哲は孫の日向に財産を渡すことは納得していると思いますが、嫁には絶対渡したくないと思います。私の妻は見るに堪えないほどやつれてしまい、うつ病を発症してしまいました。ここは何とかしないと……。
関係最悪の息子とその嫁だが、法律は容赦なく…
息子が嫁と険悪であろうとなかろうと、法律は法律。容赦なくその効力を発揮します。息子の両親にしてみれば、息子が築いた大切な資産が遺恨の残る嫁に渡るのはやりきれないでしょう。
また、相続の対象となるのは、実は資産だけではありません。遺骨やお墓、その管理も例外ではなく、それらを巡り、取り合いや押し付け合いになるといった場面は、決して珍しくないのです。
寺門 美和子
AFP(アフィリエイテッド・ファイナンシャル・プランナー) 上級プロ夫婦問題カウンセラー 相続診断士 終活カウンセラー 公的保険アドバイザー
木野 綾子
弁護士 上級相続診断士 家族信託専門士 終活カウンセラー
小川 実(監修)
税理士 上級相続診断士 終活カウンセラー
図版:秋穂 佳野