F代さんは二人目を希望していましたが、話し合うこともできません。金銭的にも体力的にも限界がきたF代さんは、真剣に離婚を考えるようになりました。
「妻が対等に収入を得ている」ことで歪んだプライド
法律相談に来た時、F代さんは思い詰めてやつれていました。夫とはもう一緒にいられない。でも自分一人では子育てと仕事を両立できない。実家は遠くて親の力は借りられない。あんなに怖くて冷たい夫なのに、いてくれないと子育てができない……。
キャリアウーマンらしく相談でも理路整然と話をするF代さんでしたが、自分の進む道が見えない不安から、最後は泣き出してしまったのです。
F代さんの収入なら、一人で子どもを育てられます。彼女のネックは、子育ての人手が絶対的に足りないことでした。
そこでまず、今後の方針を考えるために、本当に夫がいないと子育てができないかを一緒に整理してみることにしました。
まず、実家の両親に事情を話しました。F代さんは親の手は借りられないと言っていましたが、両親は娘の窮状を知って驚き、月の半分ほど母親が手伝いに来てくれることになりました。
そこでF代さんに何かのスイッチが入ったようでした。ベビーシッターや家事代行サービスを調べ、職場と交渉して出張がない部署に異動して……と、復職後の算段を着々と組み立てていきました。
もともと優秀なF代さんが目標を決めたのですから、その行動力は目を見張るものがあります。保育園の近くに別居のための部屋を契約して、夫に頼らない子育ての準備が整ったところで、F代さんは夫に離婚を切り出しました。
夫は最初、「どうやって一人で子育てするの」と鼻で笑ったそうです。しかし、F代さんは「あなたの力がなくても育てられる」ときっぱり宣言。「財産分与も養育費もいらない」「親権は渡さないが面会は自由」と条件を示すと、夫に争う余地はなく、すんなりと離婚に応じました。
F代さんの夫のように、一見理解ある男性のはずがモラハラ夫だった……という事例は増えています。ある程度学歴や教養がある男性なので、男女平等とか女性の仕事を応援するべきと理屈ではわかっています。
しかし、結婚して妻が対等に収入を得ていることを実感すると、プライドが傷ついて本音が出てくるのです。その結果、「自分は家庭に無駄なお金も労力もかけない」という意地悪な態度になります。
やっていることは「家事や育児は女の仕事」という昔ながらのモラハラ夫と同じですが、男女平等、自己責任をたてに責任逃れをして妻を追い詰める点で、現代社会が生んだ新しいモラハラと言えます。
周囲からは理想的な共働き夫婦に見えるので、相談してもなかなか被害をわかってもらえないのも難しいところです。あれほど思い詰めて相談にやってきたF代さんは、周囲の助けを借りながら、今日も生き生きと仕事と子育てを両立しています。
視野を広げて方法を探せば、モラハラ夫とは離れられる。それが顕著に表れた事例でした。
男女平等、自己責任をたてに妻を追い詰める新しいモラハラもある