D子さんがまず口にしたのは、離婚でも別居でもなく「美容院に行きたいんですが、どうしたらいいでしょうか」という言葉でした。
話を聞くと、夫に物を買うことを許されなかったエピソードが出るわ出るわ……。写真を見せてもらうと、夫は身なりの良い銀行員風ふうで、とても妻にこんな古風な強制をしている人には見えません。
夫の母親もとても質素な人だったそうで、夫は自分の中の「質素な妻像」にD子さんを当てはめようとしているように見えました。
キャラクターもののポーチを見せてはしゃぐ姿に
D子さんに、夫との生活費の話し合いを提案すると「お金の話をしたら何をされるかわからない」と言いました。まだ若く、子どももいないため、D子さんが実家に戻ったあと、夫に対して離婚調停を申し立てました。
夫は「離婚には応じるが、財産の額は教えたくない。代わりに解決金として100万円を支払う」と言ってきました。
しかし、勤務先の銀行に口座があることは確実で、隠し続けてもいずれ強制的に開示されると伝えたところ、しぶしぶ財産の資料を提出してきました。夫が婚姻中に貯めた預金は数百万円ありました。
夫は財産を隠したまま、半分よりはるかに少ない額の提案をして離婚しようとしていたのです。裁判官から夫への説得もあり、最終的にD子さんは、夫が貯めた預金を半分もらって離婚できました。
今どきこんな夫が本当にいるの? と思うかもしれません。しかし、妻にスカートを履くな、化粧をするなと禁止するタイプの夫は今もいます。生活費を渡さないのはモラハラ夫の常とう手段ですが、このタイプの夫にはさらに嫉妬による束縛も加わっています。
LINEなどのやりとりを見ても、「妻は慎ましくして家を守り、夫だけに尽くすもの」という昨今むしろ珍しい価値観にとらわれていることがわかるのです。派手にするというほどでなくても、化粧をして好きな服を着ることは、多くの女性にとって大事なアイデンティティです。
それを厳しく禁止されるのは本当につらいもので、このタイプのモラハラを受けている妻たちは、皆さん生気がなくなってしまった顔で相談にやってきます。
離婚後に挨拶に来たD子さんは、可愛いキャラクターの描かれた化粧ポーチを私に見せて、「先生、これ買っちゃいました! 可愛いでしょう?」とはしゃいでいました。高い服を着ているわけでも、派手なメイクをしたわけでもありません。
でも、好きなものを買って身につけるだけで、こんなに人は生き生きとした姿になれるのだと驚きました。
質素の名のもとの美容禁止モラハラは嫉妬とケチの合わせ技