(※写真はイメージです/PIXTA)

「自宅で穏やかな最期を迎えたい」と在宅看取りの需要が高まるなか、在宅看取りに対応できる日本の病院はわずか5%にとどまっています。その背景には過酷な終末期医療の現状が関わっていると、ねりま西クリニックの大城堅一院長はいいます。具体的にどういうことなのか、詳しくみていきましょう。

次々に死にゆく患者を診ながら、医療スタッフも疲弊

看取りは見送る家族だけでなく、医師にとっても覚悟が必要です。医師はそもそも病気の人を治すことに喜びややりがいを感じる人たちです。在宅看取りでは病や加齢によって人生を終える人と、別れを悲しむ家族をずっと見続けることになり、心身を消耗させ在宅医療を諦めてしまう医師もいます。

 

私のクリニックでも本人やご家族の希望によって在宅看取りを行っています。東京都のなかでは、在宅看取り件数が多いクリニックの一つです。

 

実は以前、今よりもがん終末期や重症患者の在宅看取りを多く診療していたことがあります。特にがん終末期の人は病院での治療を終え、自宅で亡くなることを想定して在宅医療に入ることが少なくありません。

 

ただ、がんの場合は病院での治療を終えて在宅で過ごせる期間が1~2カ月と短いことも多く、在宅医と信頼関係を築く間もなく看取りになることもあります。医師や看護師は次々に緊張を強いられる終末期の対応が続くことになるため、退職が相次いでしまったことがあります。

 

医師も看護師も高度に訓練された専門職ではありますが、皆が皆、腹をくくって人の死に向き合える人ばかりではありません。若い医師・看護師や経験の少ない人であればなおさらです。

 

看取りは結果。それまでに、家でどれだけ幸せな時間を過ごすか

私自身は地域医療を支える在宅医として、患者・家族から希望があれば在宅看取りにも対応をしていく必要があると思っています。

 

在宅で療養生活を送ってきて、最期の瞬間まで住み慣れた家で過ごせたとすれば、とても幸せなことです。しかしそれは結果に過ぎません。最終段階になって自宅で対応できず病院に運ばれて亡くなったからといって、必ずしもその人が不幸というわけではないはずです。

 

その意味でも最初から在宅看取り=「家で死ぬこと」だけを目的にした在宅医療は、何か違うと考えるようになりました。死に場所がどこかということよりもむしろ大事なのは生きている間にどれだけ充実した時間を過ごせたか、どれだけ前向きな時間をもつことができたかではないかと思うのです。

 

そこで「病気や衰えがあっても自宅でできる限り幸せな時間をもてるように支援する。そのために自分たちができる医療サービスを充実させよう」という方針を立て、医師や看護師にも伝えるようにしたところ、意欲をもって継続的に在宅医療に取り組めるスタッフが増えていきました。

 

少し余談になりますが、最近は在宅医療クリニックで、グリーフケアを行っているところがあります。グリーフケアとは看取り後の遺族を訪問し、故人についての思い出話をするなどして、深い悲しみや喪失感からの回復に寄り添うものです。

 

しかし、患者が生きている間に医師が全力でサポートしていれば、その人の死後も家族の悲嘆や後悔は多少なりとも軽減されるものと私は考えています。

 

どんな人も死を避けることはできません。そのときがくれば一人で旅立たなければなりません。医療・介護スタッフや家族にできることは、そのときまでの支援であり、生きているうちにどれだけやってあげたか、が重要です。

 

新しい検査機器や情報通信技術の普及により、在宅で行える治療・支援も以前よりも格段に進化しています。看取りのため、家で死ぬための在宅医療が不要というわけではありませんが、それだけでなく「家でより良く生きるための在宅医療」がもっと広まってほしいと願っています。

 

 

大城 堅一

医療法人社団星の砂 理事長

ねりま西クリニック 院長

 

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※本連載は、大城堅一氏の著書『自宅で死を待つ老人たち』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

自宅で死を待つ老人たち

自宅で死を待つ老人たち

大城 堅一

幻冬舎メディアコンサルティング

最期まで充実して「生きる」ために 超高齢社会における在宅医療の 新たな可能性を説く―― 在宅医療は“ただ死ぬのを待つだけの医療"ではない。 患者が活き活きと自宅で過ごし、 外来と変わらない高度な医療を受けられ…

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