「生き残る企業」の必須条件
未来に生き残る価値を維持し、成長し続ける企業とは、どのような要素を持った企業でしょうか。
■顧客のニーズに応え、先行優位性を獲得できるか
顧客エンゲージメントを高めることは、企業の競争の中核です。新たなデジタル技術の登場により、今後は、これまで以上に顧客のニーズに応えるサービスを開発・提供する競争が本格化します。
当然、顧客のニーズに人だけで対応するには限界があり、商品をカスタムメイドで生産する「C2M」のようにデジタル技術を活用して、各顧客のニーズに応える方向に各産業が進化するでしょう。企業が市場のニーズに寄り添い、顧客が求める商品だけを市場に提供するマーケットインを進化させることは、廃棄ロスを減らし、サステナブルな企業経営にもつながります(図表1)。
先行優位性を獲得し、最終的には、新しいエコシステムにおける自社のとるべきポジションを見極め、新しい価値提供のビジョンを描き、先行した優位性を維持し高めるために全員が貢献する企業が生き残ると考えられます。
■「深めること」と「探索すること」の両立
産業革命には、従来の産業構造が段階的に変化する過渡期が存在します。過渡期には、競争の原理の変化も段階的に進行します。そのため、企業は変化を予想・先回りして備えることが重要であり、そのような企業が企業価値を向上させることができます。
発生する変化に先回りして備えるには、常に市場や顧客の変化、課題に着目して、自社のサービスを改善する一方で、新しい価値を創造する必要があります。これを、「既存事業の深化」と「新しい価値や提供の仕組みの探索」と呼び、両立させる組織能力が必要です。この深化と探索を両立する組織の構築(両利きの経営)は、企業の中期的な競争優位性の源泉になります(図表2)。特に探索する組織には、従来と異なる評価制度の整備が必要であり、企業にとって大きな変革が求められます。
産業革命の中長期的な競争の原理を見越しながら、市場の要請にタイムリーに応え続け、自社のサービスを進化させ続けるためには、先見性と強いリーダーシップを持つデジタル人材と常に挑戦できる組織の存在が重要です。
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<まとめ>
●企業は求められるものだけを生産し、ニーズを満たす競争に勝ち残らなければならない
●既存事業の深化と、新しい価値や提供の仕組みの探索を両立させる
●「競争の原理の変化」を先回りして変革し続けるには、リーダーシップを持つデジタル人材と挑戦できる組織が必要
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AI時代に求められる「人の役割」
デジタル技術による環境の変化は、仕事における人の役割にも大きな変化をもたらします。その結果、人の能力を活用すべき仕事は以下の3つに集約されます。
【1. 社会や企業のあるべき姿、方向性を指し示すこと】
社会や顧客の課題に取り組み、あるべき社会や事業の方向性を決める能力は人にしかなく、AIには不可能です。近年、企業のあるべき姿は、単に利益を出して株主に還元すれば良いという、従来の資本主義の発想では済まされなくなっています。
現代では、企業が地球環境や貧富の差、食料問題などサステナビリティ全般にどう貢献するかが世間から評価されるようになりました。企業や行政において、社会の変化に対応して、今後の方向性を決め、判断するのは人にしかできない仕事です(図表3)。
【2. 業務のあるべき姿、方向性を指し示すこと】
AIは決められた数値を観測しながら、自律的にアルゴリズムを改善することができますが、目的の見直しはできません。たとえば、工場の1日の生産数を最大化することを目的に設定すると、入手できる限りの情報を使って、生産効率を高め続け、どれだけ製品在庫が確保されても、生産活動の手を緩めることはありません。
つまり企業で生産の目的を考え、考慮すべき事象(適正在庫、不良品ゼロ、安全操業など)に優先順位を設定して業務を見直すのは人の仕事です(図表4)。
【3. 人にしかできない仕事「人への接客」】
サービスがデジタル化しても、ロボットや機械より人の方が得意な仕事の代表は、コミュニケーションを必要とする、保育士やカウンセラーなどの仕事です(図表5)。
コールセンターもコミュニケーションの観点では、人が適する要素の多い仕事です。顧客は、電話した目的以外にオペレーターとの会話も期待している場合があり、「誰かと話したいという気持ち」を満たせるのは、人だけです。もちろん、DXを前提とするので、サービス全体はデジタルで構成され、顧客データ(購入履歴など)を活用して「各顧客の好みに合わせた接客」を行う必要があります(図表5)。
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<まとめ>
●あるべき方向性を決め、実現することは人しかできない
●AIは目的を見直すことはできず、与えられた数値目標を実現する工夫を続ける
●人の心に応えるコミュニケーション、接客対応は、人が圧倒的に有利
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荒瀬 光宏
株式会社デジタルトランスフォーメーション研究所 代表取締役、DXエバンジェリスト
慶應義塾大学法学部政治学科、日本政策学校、グロービス経営大学院卒。国内の多くの企業および地方自治体のデジタルトランスフォーメーション(DX)を研究・支援してきた立場から、DX成功の要諦について実践的なノウハウを所有する。これからの環境認識をベースに将来のあるべき姿や経営戦略を検討し、その戦略を実現できる組織体制、文化、マネジメントへの変革を含む全社変革プロジェクトを専門領域とする。これまでに、延べ60,000人を超える方にセミナー、講演、研修などを提供。
2017年に株式会社デジタルトランスフォーメーション研究所を設立、DXの提唱者であるエリック・ストルターマン教授をエグゼクティブアドバイザーに迎え、「DXを通じて日本の競争力を飛躍的に高め豊かな日本を後世に引き継ぐ」をミッションとして活動中。
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