【DX事例に学ぶ】ルルレモンや大丸松坂屋…EC拡大でも「リアル店舗」がなくならない“デジタル戦略”

【DX事例に学ぶ】ルルレモンや大丸松坂屋…EC拡大でも「リアル店舗」がなくならない“デジタル戦略”
(※写真はイメージです/PIXTA)

DXを成功させるためには、DXのビジョンの策定が必須です。本来は、DXのビジョン→デジタル戦略の順に検討するのが理想ですが、先にDXのビジョンを立案できない場合は、デジタル戦略をいくつか検討した後にDXのビジョンを立案したり、両者を同時立案したりしても良いでしょう。本稿では、DXのエキスパート・荒瀬光宏氏の著書『1冊目に読みたい DXの教科書』(SBクリエイティブ)より一部を抜粋し、DXの事例とそのデジタル戦略を紹介します。

世界観をデジタルで拡張する事例(D2C戦略)

リアル商品を持ち、顧客と直接的かつ多様な接点でサービスを提供し、エンゲージメントを最大化する企業をD2C(Direct to Consumer)企業、その戦略をD2C戦略と呼びます(図表1、図表2)。

 

出所:荒瀬光宏著『1冊目に読みたい DXの教科書』(SBクリエイティブ)
[図表1]D2C戦略はリアル商品ブランドに適している① 出所:荒瀬光宏著『1冊目に読みたい DXの教科書』(SBクリエイティブ)

 

出所:荒瀬光宏著『1冊目に読みたい DXの教科書』(SBクリエイティブ)
[図表2]D2C戦略はリアル商品ブランドに適している② 出所:荒瀬光宏著『1冊目に読みたい DXの教科書』(SBクリエイティブ)

 

■顧客とダイレクトにつながるD2C

D2C企業の顧客接点は、ブランドの世界観を顧客に常に発信しつつ、顧客理解に基づいてパーソナライズされた価値を提供し、顧客をファンにすることに貢献します。またリアル接点の利用履歴についても、瞬時にデータ化されます。

 

米国lululemonは、さまざまなスポーツ競技者を顧客に持ち、アパレル商品の購入体験では、ECサイトだけでなく店舗においても顧客の嗜好データをもとに、最適な接客を行います。消費体験では、自宅に設置可能な等身大のスマートミラーを通じて、他利用者との対戦、ライブレッスン、オンデマンドレッスンなどを提供しています。さらに、オンラインコミュニティを提供し、競技仲間を見つけ交流するための支援者としての役割も果たしています(図表3)。

 

荒瀬光宏著『1冊目に読みたい DXの教科書』(SBクリエイティブ)より
[図表3]D2Cブランドはリアル・デジタルの両方で世界観を発信する 荒瀬光宏著『1冊目に読みたい DXの教科書』(SBクリエイティブ)より

 

Sephoraは、多くの実店舗を持つ化粧品小売店で、AR(拡張現実)アプリ上で自身の顔に化粧をして、気に入れば店舗でも実際に試すことができます。実店舗でアドバイスを受けた後は、関連商品の情報をアプリを経由して顧客に届けるなど、接点をまたがった顧客体験を提供しています。

 

■顧客体験価値の最大化のために各接点を活用

D2C戦略では、ECサイト、スマホアプリ、リアル店舗・商品など、さまざまな接点が用いられます。D2C戦略の特徴は、各接点が短期的な売上ではなく、一貫したブランドの世界観を顧客に伝え、顧客との距離を縮めるために最適化されていることです。各接点においては、顧客エンゲージメントを高めるためにどう活用するかという観点でデザイン(設計)されることも特徴です。

 

包含戦略との明確な区別は難しいのですが、包含は顧客が行う特定のプロセスに着目することが多いのに対して、D2C戦略は、顧客が多様でプロセスが特定できない場合でも、世界観でさまざまな顧客体験をカバーできる場合があります。また、D2C戦略は、リアル商品から消費データを直接的に獲得しにくいブランドで採用が進んでいる戦略です。

 

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<まとめ>

●D2Cは、接点から直接的に世界観と価値を提供し、エンゲージメントを高める

●リアル/デジタル接点が、顧客の日常に寄り添い、距離を縮める

●接点は、短期的な売上でなく顧客体験の最大化を優先し設計される

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コアコンピタンスを活かした事例(ショールーミング戦略)

米国ではアパレル業界をはじめとした多くの業界で、D2Cブランドが急成長をしています。直販される商品が増えると、最も影響を受けるのが、メーカーから商品を仕入れて販売する百貨店です。D2Cブランドが増えれば増えるほど、百貨店は存在価値を失います(図表4)。その中で、新しい価値の提供を模索している国内事例について紹介します。

 

荒瀬光宏著『1冊目に読みたい DXの教科書』(SBクリエイティブ)より
[図表4]急成長するD2Cブランド 荒瀬光宏著『1冊目に読みたい DXの教科書』(SBクリエイティブ)より

 

■百貨店の挑戦…大丸松坂屋の「モノを売らない店」

2021年10月に大丸松坂屋がオープンした「明日見世」は、モノを売らない店で、D2Cブランドの商品を陳列する形態です。在庫を持たず販売もせず、気に入った商品は各D2Cブランドのサイトやアプリから購入してもらうビジネス形態をとっています。「明日見世」は、ショールームとしての場と接客だけ提供するという割り切った価値を提供し、この戦略をショールーミング戦略と呼びます。ショールーミング戦略は、場の提供がメインであるため初期コストは低いものの、得られる対価は限られることが予想されます。

 

他にも、2021年9月にそごう・西武がオープンした「CHOOSEBASE SHIBUYA」があります。「CHOOSEBASE SHIBUYA」は、D2Cブランドだけを集約した売り場であり、各D2Cブランドが自社単独で用意が難しい商品の展示スペース、決済、店頭在庫とEC在庫の連動管理、AIによる店内画像データ解析、配送などの仕組みを提供しています。百貨店にとっては、D2Cブランドを店内に取り込み、顧客に店舗に足を運んでもらう動機を作りつつ、顧客のデータを取得・分析し、知見を蓄積することができます。D2Cブランドにとっては、大きな投資が不要で百貨店の場、データ解析、受け渡しや配送システムなどを利用することができます。

 

■コアコンピタンスを軸にイノベーションを起こす組織へ

これらのケースは、競争相手への場所の提供や、モノを売らないサービスなど、従来の常識とかけ離れています。しかし、百貨店のコアコンピタンスである、顧客が集う場を軸にした施策です。次に打つべき戦略が見えにくい場合は、自社(自業界)が他社より得意とする要素を活かしたビジネスモデルを、従来の常識に縛られずに模索しましょう(図表5)。

 

出所:荒瀬光宏著『1冊目に読みたい DXの教科書』(SBクリエイティブ)
[図表5]コアコンピタンスから次の戦略を考える 出所:荒瀬光宏著『1冊目に読みたい DXの教科書』(SBクリエイティブ)

 

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<まとめ>

●ショールーミング戦略とは、商品の説明と体験を切り出したサービスを提供する戦略

●百貨店業界では、コアコンピタンスを軸として提供価値を見直している

●新しいデジタル戦略が立案できない場合は、戦略を模索するための挑戦から始める

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荒瀬 光宏

株式会社デジタルトランスフォーメーション研究所 代表取締役、DXエバンジェリスト

 

慶應義塾大学法学部政治学科、日本政策学校、グロービス経営大学院卒。国内の多くの企業および地方自治体のデジタルトランスフォーメーション(DX)を研究・支援してきた立場から、DX成功の要諦について実践的なノウハウを所有する。これからの環境認識をベースに将来のあるべき姿や経営戦略を検討し、その戦略を実現できる組織体制、文化、マネジメントへの変革を含む全社変革プロジェクトを専門領域とする。これまでに、延べ60,000人を超える方にセミナー、講演、研修などを提供。

2017年に株式会社デジタルトランスフォーメーション研究所を設立、DXの提唱者であるエリック・ストルターマン教授をエグゼクティブアドバイザーに迎え、「DXを通じて日本の競争力を飛躍的に高め豊かな日本を後世に引き継ぐ」をミッションとして活動中。

 

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※本連載は、荒瀬光宏氏の著書『1冊目に読みたい DXの教科書』(SBクリエイティブ)より一部を抜粋・再編集したものです。

1冊目に読みたい DXの教科書

1冊目に読みたい DXの教科書

荒瀬 光宏

SBクリエイティブ

DX(デジタルトランスフォーメーション)の基本から実現のプロセスまで、図解で本当によくわかる! 「DXとは何か?」 「どうしてDXが必要なのか?」 「日本のDXの現状は?」 「必要なデジタル技術は?」 「成功事例の…

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