社長「当社はデジタルシフトに取り組みます」と宣言したが…各部門が“まったく別なこと”を考えて大失敗してしまう根本原因

社長「当社はデジタルシフトに取り組みます」と宣言したが…各部門が“まったく別なこと”を考えて大失敗してしまう根本原因
(※写真はイメージです/PIXTA)

DXに取り組んでも、費用対効果が上がらず、変革が進まない企業は少なくありません。DXのエキスパート・荒瀬光宏氏の著書『1冊目に読みたい DXの教科書』(SBクリエイティブ)より一部を抜粋し、見落とされがちなDX成功のポイントを解説します。

社内での「用語の共通理解」はDX成功の“下地”

DXに関連する言葉のうち、混同しやすいものについて解説します。DXの成功に向けて、事前にきちんと意味を整理しておくことが大切です。

 

■DXの前段階「IT化・デジタル化」「カイゼン」「デジタルシフト」

これまで企業は、人よりも機械の方が効率よく実行できる業務を、システムへ置き換えてきました(IT化・デジタル化)。取り扱う情報の紙からデータへの置き換えや、業務フローに沿ったシステム開発などが該当します。


さらに企業は、デジタル技術を活用して、業務プロセス全体を最適化し、高い品質を追求してきました(カイゼン)。これらの業務システムを、すべてつなげて管理できる状態にすることを「デジタルシフト」と呼びます(図表1)。

 

出所:荒瀬光宏著『1冊目に読みたい DXの教科書』(SBクリエイティブ)
[図表1]DXまでのステップ 出所:荒瀬光宏著『1冊目に読みたい DXの教科書』(SBクリエイティブ)

 

従来の業務プロセスを、デジタルに置き換える(シフトする)意味合いが強いため、価値や提供の仕組みを見直すDXとは、区別して使い分けると良いでしょう。DXより前の段階ですが、デジタルシフトによって、定型業務に携わる人の工数の削減、業務の効率化、さまざまなデータの獲得につながります。そのため、新しい価値や提供の仕組みなど、DXで目指すあるべき姿を描きにくい場合は、デジタルシフトを先に行うことも有効です。

 

■DXに含まれる要素「イノベーション」

従来のビジネスモデルにこだわらず、顧客が求める価値を創造すること(イノベーション)は、DXの重要な要素です。そのため、DXを行う企業は、新しい価値や提供の仕組みを検討できる人材の育成、創造した価値を市場に提供するためのふさわしい組織行動の整備など、幅広い変革が求められます。

 

■事前に「曖昧な言葉」を整理しておく

DXを進める企業が増える中で、組織内で用語の共通理解がないことによって、各自がバラバラに活動し、失敗する事例が多いのも事実です(図表2)。DXプロジェクトで使われる用語については、組織内での齟齬を防ぐために、上記のものに限らず、DXの初期段階で用語集を整備し、いつでも参照できる状態にすることを推奨します。

 

出所:荒瀬光宏著『1冊目に読みたい DXの教科書』(SBクリエイティブ)
[図表2]社内で言葉の理解が共通化されていない例 出所:荒瀬光宏著『1冊目に読みたい DXの教科書』(SBクリエイティブ)

 

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<まとめ>

●IT化やデジタル化、デジタルシフトは既存の業務の改善や最適化が主眼

●顧客が求める価値を創造するイノベーションは、DXの不可欠な要素

●あるべき「価値」や「提供の仕組み」が描けない場合は、デジタルシフトから着手しても良い

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DX成功には「ビジョン策定」が不可欠

DXは組織を挙げた大規模な変革です。DXを成功させるには、DXのビジョンを策定し、DXで何を実現したいか明確に組織全体に伝えることが重要です。

 

■「DXで実現したいこと」を明確化しない企業の末路

実現したいこと(DXのビジョン)を明確にしないままDXを行うと、部分的な業務でデジタル技術の活用が行われるものの、費用対効果が上がらず、変革を進める動機も弱いため、DXは進みません。DXの取り組みは、「以前の経営改革と同様に上手くいかなかった」と評価されることになります。そして、DXが失敗したという印象が組織内に広がると、変革の機運が失われ、再度DXに取り組むことが難しくなります(図表3)。

 

出所:荒瀬光宏著『1冊目に読みたい DXの教科書』(SBクリエイティブ)
[図表3]DXのビジョンの有無による差 出所:荒瀬光宏著『1冊目に読みたい DXの教科書』(SBクリエイティブ)

 

このようにDXと称して、DXのビジョンを策定せずにデジタル技術を既存業務に取り入れる取り組みは、「DXごっこ」と呼ばれます。中期経営計画でDXを掲げていて、実現したいことが未記載の組織は、DXごっこの可能性があります。

 

■DXのビジョンを明確に、全員で共有することが成功に繋がる

DXを成功させるためには、DXのビジョンの策定が必須です。DXのビジョンは、その上位にある企業理念との整合性をとりつつ、①事業環境の変化、②DXで実現したいこと、③目指す価値や提供の仕組み、④あるべき姿、⑤組織の役割の再定義、⑥従来との違いの明確化、⑦変えるべき要素、⑧スケジュールなどの計画を明確に記載します。DXのビジョンは社内で共有し、社員全員が理解し、行動規範として常に参照できるようにします(図表4、図表5)。

 

出所:荒瀬光宏著『1冊目に読みたい DXの教科書』(SBクリエイティブ)
[図表4]階層イメージ 出所:荒瀬光宏著『1冊目に読みたい DXの教科書』(SBクリエイティブ)

 

出所:荒瀬光宏著『1冊目に読みたい DXの教科書』(SBクリエイティブ)
[図表5]通信教育会社のDXのビジョンの骨子例 出所:荒瀬光宏著『1冊目に読みたい DXの教科書』(SBクリエイティブ)

 

さらに、DXのビジョンで掲げる価値を、どの顧客に、どのように提供して実現するかを、事業や商品サービスごとに具体化します。この事業ごとに具体化された計画が「デジタル戦略」です。デジタル戦略を考える際は、上位にあるDXのビジョンとの整合性、実行する人員の確保、顧客課題に着目し新しい価値を創造する能力を組織に備えることが重要となります。

 

本来は、DXのビジョン→デジタル戦略の順に検討するのが理想ですが、先にDXのビジョンを立案できない場合は、デジタル戦略をいくつか検討した後にDXのビジョンを立案したり、両者を同時立案したりしても良いでしょう。

 

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<まとめ>

●DXで何を実現したいのかを、DXのビジョンで明確化する

●DXを実現するための計画として、各事業のデジタル戦略を立案する

●企業理念、DXのビジョン、各事業のデジタル戦略の整合性を意識してDXを進める

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荒瀬 光宏

株式会社デジタルトランスフォーメーション研究所 代表取締役、DXエバンジェリスト

 

慶應義塾大学法学部政治学科、日本政策学校、グロービス経営大学院卒。国内の多くの企業および地方自治体のデジタルトランスフォーメーション(DX)を研究・支援してきた立場から、DX成功の要諦について実践的なノウハウを所有する。これからの環境認識をベースに将来のあるべき姿や経営戦略を検討し、その戦略を実現できる組織体制、文化、マネジメントへの変革を含む全社変革プロジェクトを専門領域とする。これまでに、延べ60,000人を超える方にセミナー、講演、研修などを提供。

2017年に株式会社デジタルトランスフォーメーション研究所を設立、DXの提唱者であるエリック・ストルターマン教授をエグゼクティブアドバイザーに迎え、「DXを通じて日本の競争力を飛躍的に高め豊かな日本を後世に引き継ぐ」をミッションとして活動中。

 

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※本連載は、荒瀬光宏氏の著書『1冊目に読みたい DXの教科書』(SBクリエイティブ)より一部を抜粋・再編集したものです。

1冊目に読みたい DXの教科書

1冊目に読みたい DXの教科書

荒瀬 光宏

SBクリエイティブ

DX(デジタルトランスフォーメーション)の基本から実現のプロセスまで、図解で本当によくわかる! 「DXとは何か?」 「どうしてDXが必要なのか?」 「日本のDXの現状は?」 「必要なデジタル技術は?」 「成功事例の…

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