(※画像はイメージです/PIXTA)

回転寿司チェーン大手「スシロー」で、高校生の少年が醤油ボトル、湯呑み、寿司に唾液を付着させた事件について、どのような法的責任が問われるのか、とりわけ賠償額がいくらになるのかが、話題となっています。本記事では、一切の感情を排し、少年が問われる可能性のある法的責任の中身について、刑事責任と民事責任に分けて解説します。

民事責任(賠償責任)はどこまで問えるか?

まず、民事責任については、民法上の「不法行為責任」(民法709条)が問題となります。

 

民法709条の条文にあてはめると、「故意」によってスシローの「権利または法律上保護される利益を侵害」し、これによって何らかの「損害」が発生したこと自体は明らかなので、不法行為責任が成立することは争いありません。

 

問題は、「損害賠償の範囲」です。すなわち、少年の一連の行為と事実的因果関係が認められる損害のうち、どこまで賠償の対象とするべきか、ということです。

 

この点については、判例・通説上、「相当因果関係説」という考え方が採用されています(民法416条参照)。つまり、社会通念上、「通常生ずべき損害」といえるかという規範的評価が行われるのです。

 

◆損害賠償責任はどこまで負うか

醤油さしや湯呑みを買い替えたこと、店内の設備を掃除したこと、店舗のスタッフや社員が対応に追われたことについては、明らかに「通常生ずべき損害」といえます。

 

では、今回の件を受けて再発防止のためオペレーションを変更しなければならなくなったとすればどうでしょうか。これは、衛生管理を強化するものであり、「損害」というよりも「改善」のための支出ということになります。「通常生ずべき損害」と評価することは難しいと考えられます。

 

また、今後、今回の事件のせいで客足が遠のき売上が減少したという事実が証明されれば、それも、「通常生ずべき損害」に含まれる可能性があります。現に、「もう回転寿司屋へは行けない」といった声も聞かれます。しかし、そういった声があることが、売上の減少につながるかどうかは、現時点では明らかではありません。

 

◆「株価下落」について責任を問えるか?

なお、一部で、スシローの運営会社「株式会社あきんどスシロー」の持株会社である「株式会社FOOD & LIFE COMPANY」の株価下落により同社の時価総額が下落したことをさして、168億円の賠償責任が発生するのではないかという見解が、まことしやかに喧伝されています。

 

しかし、この点については、因果関係の有無を吟味する必要があります。つまり、上述した「通常生ずべき損害」といえるかどうかということです。

 

ただし、その前提として、「事実的因果関係」がなければならないのはいうまでもありません。

次ページ「事実的因果関係」すらあやしい…

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