戦後から現代まで続く「M資金詐欺」…日本で決して表沙汰にならないワケ

戦後から現代まで続く「M資金詐欺」…日本で決して表沙汰にならないワケ
(※写真はイメージです/PIXTA)

M資金詐欺は、明らかに詐欺ではあるものの、法律的に詐欺行為として証明できるほどの証拠がなく、結果として表沙汰になりにくい事例が多くあると、ライターの藤原良氏はいいます。一代で巨大外食産業グループ『コロワイド』を築いた蔵人金男氏も、詐欺グループから31億円以上を騙し取られた被害者です。稀代のビジネスマンすら騙される「M資金詐欺ならではの理由」とはなんなのか、藤原氏が解説します。

※M資金とは……第二次世界大戦下、敗戦濃厚と判断した旧日本軍の一部が、連合国に押収されるのを嫌って極秘に保管したといわれる「隠し財産」のこと

犯罪者が持つ独自の「動物的感覚」

自分がどうしても欲しいもの、得たいものの存在が少しでも身近に感じられると、誰しも正常な判断が機能しなくなってしまう。

 

たとえば奨学金と仕送りで大学に通っている学生が芸能界デビューの夢を実現したくて、芸能界デビューのために悪質なプロダクションに30万円を支払い、騙し取られてしまったというような話は珍しくない。

 

「夢の実現のためには、いくらかの経費が掛かるのは避けられないが、そのプロセスの大半を金の力で推し進めることが可能になる」と詐欺師たちは被害者を巧みに誘導するのだ。それは夢と現実の狭間で、被害者が長い間苦しみもがき、藁をも掴む思いでいる期間が長いほど、陥りやすい罠だ。

 

そして、M資金信者やM資金狂いの人々にとって、M資金を追い続けることは紛れもなく『生きがい』であり、その実現のためなら少々理性を失ってしまうことも当然なのかもしれない。

 

そしてどんな人間でもそのような心理状態に陥りやすく、詐欺師はそういった願望や欲望に基づく心理を犯罪者独自の動物的感覚で刺激するのがとても巧妙なのだ。

 

蔵人会長は約31億円以上もの『必要経費』を支払ったあと、XとYからなんの音沙汰もなくなり、約5ヶ月間が過ぎた。その間に会長は冷静さを取り戻して、XとYに対する不信感を募らせ、2019年5月、神奈川県警に刑事告訴したのだった。

 

そして捜査の結果、XとYだけではなく、指南役の主犯格と目される武藤を含めた3人が神奈川県警捜査二課によって2020年6月と7月に詐欺容疑で相次いで逮捕された。

 

逮捕当時、マスコミ各社はこの事件を衝撃的に扱い「約31億円以上の巨額詐欺被害」「M資金」「経済界の大物が騙された」という見出しが躍った。

 

そして「なぜ今、M資金なのか?」「なぜこんな大物が騙されてしまったのか?」と疑問の声が相次いだが蔵人会長は、M資金トレジャーハンター仲間である大学関係者から「信憑性のある話かもしれない」とXとYのことを紹介され、彼らの身なりや話しぶりや、見せられた資料を信じてしまい、経費名目で金を渡してしまったというのがこの事件の経緯だった。

 

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※本連載は、藤原良氏の著書『M資金 欲望の地下資産』(太田出版)から一部を抜粋し、再編集したものです。

M資金 欲望の地下資産

M資金 欲望の地下資産

藤原 良

太田出版

「私達のM資金は本物です」 「やっぱりあれはあったんですね……」 昭和から次々と大企業経営者たちが飲み込まれてきた「M資金詐欺」。 令和にもなお黒く輝き続ける“幻”の正体を追う。

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