犯罪者が持つ独自の「動物的感覚」
自分がどうしても欲しいもの、得たいものの存在が少しでも身近に感じられると、誰しも正常な判断が機能しなくなってしまう。
たとえば奨学金と仕送りで大学に通っている学生が芸能界デビューの夢を実現したくて、芸能界デビューのために悪質なプロダクションに30万円を支払い、騙し取られてしまったというような話は珍しくない。
「夢の実現のためには、いくらかの経費が掛かるのは避けられないが、そのプロセスの大半を金の力で推し進めることが可能になる」と詐欺師たちは被害者を巧みに誘導するのだ。それは夢と現実の狭間で、被害者が長い間苦しみもがき、藁をも掴む思いでいる期間が長いほど、陥りやすい罠だ。
そして、M資金信者やM資金狂いの人々にとって、M資金を追い続けることは紛れもなく『生きがい』であり、その実現のためなら少々理性を失ってしまうことも当然なのかもしれない。
そしてどんな人間でもそのような心理状態に陥りやすく、詐欺師はそういった願望や欲望に基づく心理を犯罪者独自の動物的感覚で刺激するのがとても巧妙なのだ。
蔵人会長は約31億円以上もの『必要経費』を支払ったあと、XとYからなんの音沙汰もなくなり、約5ヶ月間が過ぎた。その間に会長は冷静さを取り戻して、XとYに対する不信感を募らせ、2019年5月、神奈川県警に刑事告訴したのだった。
そして捜査の結果、XとYだけではなく、指南役の主犯格と目される武藤を含めた3人が神奈川県警捜査二課によって2020年6月と7月に詐欺容疑で相次いで逮捕された。
逮捕当時、マスコミ各社はこの事件を衝撃的に扱い「約31億円以上の巨額詐欺被害」「M資金」「経済界の大物が騙された」という見出しが躍った。
そして「なぜ今、M資金なのか?」「なぜこんな大物が騙されてしまったのか?」と疑問の声が相次いだが蔵人会長は、M資金トレジャーハンター仲間である大学関係者から「信憑性のある話かもしれない」とXとYのことを紹介され、彼らの身なりや話しぶりや、見せられた資料を信じてしまい、経費名目で金を渡してしまったというのがこの事件の経緯だった。
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