認知症の発症リスク1.9倍、糖尿病の有病率2倍…「歯周病」を放置する人が抱えている、“これだけのリスク”

認知症の発症リスク1.9倍、糖尿病の有病率2倍…「歯周病」を放置する人が抱えている、“これだけのリスク”
(※写真はイメージです/PIXTA)

歯周病は「日本人が歯を失う原因」として代表的な疾患ですが、その恐ろしさは、単に「歯を失うこと」に留まりません。いずれも菌の感染症によって起こる感染症ですが、菌や毒素が鼻やのど、脳に回ることもあり、時として命を脅かす全身の病気を招くこともあるのです。大阪中之島デンタルクリニック院長・山本彰美氏が、歯科疾患と関わりのある「全身の病気」について解説します。

糖尿病、肺炎…命を脅かす全身の病気も歯周病が関係!

国内外の研究で、口の中の炎症と関連性のある体の病気はたくさんあることが分かってきています。口の中の炎症が体の炎症のみなもとになり、あちらこちらで悪さをしてしまうのです。

 

代表的なものが、糖尿病です。

 

糖尿病は血糖値といって血液中の糖の濃度が異常に高くなる病気です。食べ物からとった糖が血液中に過剰に増え、血管がボロボロになってしまうのです。予備群まで含めると全国に約4000万人いるとされ、国民病といわれています。進行すると眼は網膜症を起こし失明したり、神経障害でしびれが起こったり、腎症になり透析を余儀なくされたりなど、全身に及ぶさまざまな合併症の危機にさらされます。

 

歯周病になると歯周病の原因菌がつくりだす物質によって、血糖値を下げるホルモンであるインスリンの働きが阻害され、糖尿病の発症や重症化のリスクが高くなると考えられています。米国の研究では、歯周病患者の糖尿病有病率は歯周病でない人の有病率の2倍にもなることが示されています(米国国民栄養調査)。

 

歯周病のある人が糖尿病になって専門医にかかると、まず歯周病の治療を受けてください、と言われるほど強い関連性があるのです。

 

そのほかにも歯周病は心臓に栄養や酸素を送る血管が詰まってしまう「心筋梗塞」、脳の血管が詰まって起こる「脳梗塞」など突然死を引き起こす疾患や、肺炎や認知症、低体重児出産などさまざまな全身疾患のリスクがあることが分かってきています【図表】。

 

【図表】歯周病との関連が指摘されている疾患

 

※Soskolne WA Klinger A: The relationship between periodontal diseases and diabetes: an overview. Ann Periodontol 6:91-98, 2001

Demmer RT, Jacobs DR, Jr., Desvarieux M: Periodontal disease and incident type 2 diabetes: results from the First National Health and Nutrition Examination Survey and its epidemiologic follow-up study. Diabetes Care 31:1373-1379, 2008

 

なお内臓の手術を受けるときにも口腔環境が良好に保たれていることは大事です。

 

手術後は体の抵抗力が弱っていることが多く、口の中の細菌が体に入り込むことで感染症を起こすリスクが高くなるからです。特に口と気管を通してつながっている肺には菌が入り込みやすく、肺炎を起こしたときには命に関わる場合もあります。

 

また手術した部位に万一、口の中の細菌が感染すると、治癒が遅れる恐れもあります。

 

近年は大病院を中心に医科と歯科が連携して、手術前に口の中の清掃や歯周病の治療などを行う周術期口腔ケアが推進されています。

 

口の中の状態が悪いということは、大きな手術をしたあとの治りが悪くなったり、時には命をも脅かされたりすることにつながってしまいかねないのです。

歯がなくなると「将来の認知症リスク」も高まる恐れが

超高齢社会の日本で、今最も恐れられている病気の一つが認知症だといえます。

 

高齢化率が世界トップクラスのわが国では、認知症患者の増加も深刻な社会問題となっています。認知症の根治療法は確立されていません。進行を遅らせる効果が期待できる薬はあるものの、ひとたび発症すると完治は見込めず長い期間をかけて進行することもあり、生活に大きな支障をきたします。周囲の介護負担も重く、将来設計の見直しを余儀なくされるなど、さまざまな問題が人生に影を落とす病気といえるでしょう。

 

この認知症と、歯の数との関係を調べた研究があります。愛知県の65歳以上の住民を3〜4年間追跡した研究で、歯を失い入れ歯を使用していない場合、歯が20本以上残っている人や歯がほとんどなくても入れ歯により噛み合わせが回復している人と比較して、認知症の発症リスクが最大1.9倍になることが示されています。

 

また別の60歳以上の高齢者を対象にした英国の研究では、歯がなくなると10年後の記憶力が、歯がある人よりも低くなるとの報告も出ています。

 

これには、うまく噛めないために脳への刺激が乏しくなり、働きが衰えるのではという説や、歯周病などの菌が認知症を進行させるような物質を放出しているのではないかという説があり、メカニズムは解明の途上ですが、リスク要因はできるだけ排除し発症予防に努めるのが賢明な考えといえます。噛める歯、きちんと機能する口をつくることが、認知症を遠ざけることにつながるのです。

 

私たちは認知症を「脳の病気」、関節リウマチは「関節の病気」、肺炎は「肺の病気」といったように、病気になった臓器や組織だけに目がいき、それぞれの病気はまったく別ものとしてとらえがちです。

 

しかし昨今は「炎症」をキーワードに、病気のメカニズムは共通している部分も多いとの説が有力になってきています。

 

その代表格が歯周病といえます。口の中だけの病気と思われていたものが今や「全身病」のもと、とまで言われ、口腔の健康維持の重要性が叫ばれています。国からも、国民全員に年1回の歯科検診を推進する方針が出されています。歯科疾患をあなどってはならないのです。

 

 

山本 彰美

大阪中之島デンタルクリニック 院長

 

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    ※本連載は、山本彰美氏の著書『歯科恐怖症患者を救う!スゴイ無痛歯科治療』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

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    山本 彰美

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