「昨日までは元気だったのに…」高齢者はたった一度の転倒で“寝たきり”も。老後「転びやすい人、つまずいても持ち直す人」の分かれ目

「昨日までは元気だったのに…」高齢者はたった一度の転倒で“寝たきり”も。老後「転びやすい人、つまずいても持ち直す人」の分かれ目
(※写真はイメージです/PIXTA)

前回の記事では、身体に力をいれたり、前後左右の姿勢のバランスをとったりするには「顎の位置」が重要であり、顎を安定させるには、上下の歯を正しい位置で噛み合わせることが大切であることを解説しました。口の健康状態は全身の健康状態と深い関連性があります。人生100年時代、「自立した健康的な生活」をできるだけ長く送るためのポイントを見ていきましょう。

噛み合わせの良し悪しは「体の安定性」に関わる

年をとってからの転倒は骨折リスクが高く、寝たきりにつながります。昨日まで元気だったのにふとしたことで転倒し、骨折したのをきっかけに寝たきりになってしまったというケースも少なくありません。

 

それでは転ばなければいいわけですが、予防できるかどうかはつまずいたときにいかに体勢を整えられるかにかかっています。

 

そのために重要となるのが顎の安定であり、きちんと噛める歯があることなのです。高齢であってもつまずいてしまったときに体幹がしっかりしていれば、バランスを崩して転倒するのを防げるというわけです。

 

愛知県の65歳以上の住民を3〜4年間追跡した研究では、歯の数と転びやすさとの関係も調べられています。

 

歯が多く残っている人や歯が少なくても義歯等を入れている人と、歯が少ない人また義歯を入れていない人とを比較した結果、年齢や治療中の病気、生活習慣などの転びやすさに関係する他の要素の影響を除外しても、歯が多く残っている人や、義歯などで補い噛み合わせが改善されている人のほうが、転倒する危険性が低いということが分かってきています。

 

転倒したのは、歯がそろっておらず上下の歯が噛み合っていなかったからだなんて考えもつかない人のほうが多いのではないかと思います。「あのとき転びさえしなければ…」と悔やんでも、「歯を治しておけば…」とはまず思わないものです。

 

でも歯が噛み合っていれば体の軸がしっかりし、重心もしっかりすることは、医学的にはっきりしています。足腰と同じくらい歯の状態にももっと目が向けられるべきだと私は考えます。

 

誰でもうっかりつまずいてしまうことはありますが、そこで踏みとどまりもちこたえられるか、そのまま転んでしまうか―たったそれだけのことでその先の人生が180度違うものになってしまうのですから軽視はできません。

人は「口から」老いる

自立した健康的な生活を送るには「口の状態」が重要

人生100年時代といわれています。

 

しかし晩年になって寝たきりになってしまっては、寿命が長くなっても充実した人生とは程遠くなってしまいます。

 

健康寿命という言葉があります。これは人の手を借りずに自立した生活ができる期間のことで、2019年の厚生労働省発表によれば男性は72.68歳、女性は75.38歳です。一方、平均寿命は2020年時点で男性81.64歳、女性87.74歳であり、10年前後の差があります。

 

健康寿命と平均寿命の差をできるだけ縮めるために、国はさまざまな健康増進策をとっていますが、そのなかで口の健康の重要性にも注目が高まっています。

 

よく「人は足から老いる」といわれます。しかしその足の弱りも、もしかしたら噛み合わせが良くないことによる「口の弱り」が先にあって、そのために起こっているとも考えられます。

 

一方、近年は「人は血管から老いる」ともよく聞きます。少し前のことですが「血管年齢」とか「血液サラサラ」などの分かりやすい言葉で、脳卒中や心筋梗塞などの命を脅かす疾患を引き起こす動脈硬化を予防することの大切さが言い表されたこともありました。

 

しかしその動脈硬化も、歯周病があると進みやすいとの指摘が、数々の研究からなされるようになっています。

 

「人は足から老いる」も「人は血管から老いる」も間違いとはいいませんが、「口の老い」も一つの要因といえます。歯科領域の専門家にとっては、「人は口から老いる」こそ、もっと世間に広まってほしい言葉なのです。

 

昨今、「オーラルフレイル」という言葉が、メディアでよく取り上げられるようになってきました。オーラルは口、フレイルは虚弱を意味します。「口腔機能が低下している状態」と理解すればよいと思います。

 

口腔機能の低下とは、噛む・飲み込むをはじめ、話したり呼吸したりなど、口を動かすことで行われる機能の低下であることはいうまでもありません。

 

口の機能低下を防ぐことが、できるだけ長く自立した健康的な生活を送ることに重要であるとの認識が、周知されてきているのです。

 

まさに「人は口から老いる」のです。

健康改善は「健康できちんと噛める歯」を作ることから

歯科治療を極度に恐れ、さまざまな拒絶反応があらわれてしまう状態を「歯科恐怖症」といいます。

 

歯科恐怖症の人は、下の歯すべて、あるいは上顎の右側の歯が根こそぎなくなっていることも多いです。これはもともとはどこか1ヵ所だけ不具合があったのを放置していた結果といえます。

 

健康な人なら32本ある歯が、歯科恐怖症の人は若くても残っているのは半分以下、しかも残っていても半分溶けていたり、ぐらぐらしていたりなどで、結局ほとんど使い物にならないという人も少なくありません。

 

こうした状態を口腔崩壊といいます。文字どおり口の中を構成している歯がなくなり、口の役割を果たせない状態です。当然、生活にさまざまな支障が出てしまいます。

 

オーラルフレイルは今のところ噛める歯が少ない高齢者が啓発の主な対象ですが、歯がそろっていないことにおいては口腔崩壊を起こしている人も同じです。ぜひ歯科恐怖症の患者にも、歯がそろっていないことがどれだけ先々の健康に不利かを理解してほしいのです。

 

さまざまな体の疾患を根本から解決するには、「歯科疾患のないきちんと噛める歯」をつくることが先決といっても言い過ぎではありません。

 

口腔崩壊を起こしていたら一刻も早く歯を治療し、必要に応じ義歯やインプラントなどでなくなった歯を補ってあげることが必要なのですが、歯科恐怖症の人は歯科医院に行きたがりませんからなかなか解決に至りません。かといってそのままにしていたら永遠に体の不調からは解放されず悪くなる一方です。これはとても深刻な事態です。

 

歯科恐怖症の人は若い世代にもたくさんいます。歯科治療を受けてこなかったために30代にして噛める歯がほとんどないような患者も珍しくありません。その人が60代、70代になったときの健康状態は、口の状態がいい人と比べて、内臓疾患も、運動能力も、すべてにおいて雲泥の差がついてしまうことは想像に難くありません。

 

 

山本 彰美

大阪中之島デンタルクリニック 院長

 

※本連載は、山本彰美氏の著書『歯科恐怖症患者を救う!スゴイ無痛歯科治療』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

歯科恐怖症患者を救う!スゴイ無痛歯科治療

歯科恐怖症患者を救う!スゴイ無痛歯科治療

山本 彰美

幻冬舎メディアコンサルティング

歯医者に来ると身震いしてしまう。怖くて口を閉じてしまう…。 そんな歯科恐怖症で悩む患者を救う! 眠っている間に治療が終わり、長期通院も必要なし! 痛みと恐怖心を取り除く無痛歯科治療とは?

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