(※写真はイメージです/PIXTA)

むし歯や歯周病は、「日本人が歯を失う原因」として代表的な疾患ですが、その恐ろしさは「歯を失うこと」に留まりません。いずれも菌の感染症によって起こる感染症ですが、菌や毒素が鼻やのど、脳に回ることもあり、時として命を脅かす全身の病気を招くこともあるのです。大阪中之島デンタルクリニック院長・山本彰美氏が、口の健康と全身の健康の関連性について解説します。

むし歯や歯周病…歯科疾患は「口以外」にも悪影響

病気が口の中だけにあるのなら、その病巣を取り除けば完治するでしょう。しかし一見、口の中だけの病気と思われがちなむし歯や歯周病は、進行すると病巣が口以外にも広がっていきます。

 

例えば副鼻腔炎という病気があります。細菌が副鼻腔の粘膜に感染することで炎症を起こし、鼻水や咳が出たり頭痛が起きたりする病気ですが、むし歯が原因となるケースが多々あります。

 

これは上顎の奥歯が鼻の副鼻腔に近い位置にあるため、むし歯の原因菌や菌から発生する炎症物質が広がりやすいからです。扁桃腺炎や中耳炎なども、原因の一つとして歯科疾患が挙げられます。

 

むし歯菌が血流にのって脳に達すると脳炎を起こす恐れもあります。頭痛や吐き気のほか、重篤になると意識障害を引き起こす可能性もあり、命をも脅かす怖い病気です。

 

歯を治療しない限り、細菌や細菌から発生する毒素が体内に入るのを止めることはできません。

 

感染の広がりは頭部だけにとどまりません。細菌や毒素が全身に回ると肺や肝臓、腎臓などの各臓器で菌が繁殖し、多臓器不全に陥ってしまう敗血症を起こし、生命が脅かされます。各臓器は血管でつながっていますので、血液を介して菌や菌がつくりだす毒素が次々と臓器を侵してしまうのです。

菌が火種となり、全身に「炎症」を起こす

昨今、口の健康と全身の健康との関連が世界的に注目されています。

 

口は人体の入り口であり、食べたり飲んだり呼吸したりと、生命に必要なものを取り込んでいます。その口のケアがきちんとできてなくて不衛生だったりしたら、私たちは知らず知らずのうちに有害なものを体内に入れてしまうことになります。むし歯や歯周病に代表される歯科疾患が、全身の健康に悪影響を及ぼし得ることが国内外の研究から明らかになっています。

 

歯周病と全身的な疾患との間に関連を示すキーワードが「炎症」です。

 

体にはもともと悪い菌などのさまざまな外敵から体を守る、免疫と呼ばれる防御部隊が備わっています。敵が侵入してくると免疫が発動してそれを排除したり、傷ついた細胞を修復するよう働きます。このとき起こるのが炎症です。歯科疾患でいえば歯ぐきが腫れたり出血したりするのは、外敵から身を守る免疫と菌とが戦っているともいえます。

 

炎症と聞くと体に悪いもの、とイメージされるかもしれませんが、体が回復に向かうために起こる現象なので、本来、有害なものではありません。

 

身近な例では風邪をひいてのどが腫れたり、なんらかの原因で皮膚が赤くただれたりかゆくなったりするのも炎症が起きているということになります。

 

蚊に刺された場所がかゆくなったり赤みを帯びて腫れたりするのも炎症の一種です。蚊は吸血する際に唾液を分泌するのですが、この唾液を人体が異物と認識して外へ出そうとするときかゆみや腫れなどの反応が起こるのです。

 

花粉症でくしゃみや涙が止まらないのも、免疫が花粉を異物とみなし、追い出したり退治したりする結果なのです。目が赤くなったり鼻が詰まったりということも、免疫が敵と戦っているからこそであり、炎症そのものは悪者、というわけではありません。

 

しかしこの炎症が長引くとやっかいなことになります。免疫が病原菌をやっつけてすぐ勝利を得られれば、炎症の戦火もほどなくおさまっていくのですが、悪い菌が優勢になっていると免疫は苦戦を強いられて力が低下してしまいます。そうするといつまでも炎症の火種が消えることなく、それどころかどんどん敵が進軍していきます。悪い菌からつくりだされる毒性物質は、歯ぐきの血管から血液中に入っていき全身に運ばれていきます。そうなると体を守る免疫は手が足りなくなってしまいます。

 

免疫は体全体を守る防御部隊ですから歯科疾患の病原菌だけを相手にしているわけではありません。なかなか治らない歯科疾患に手を焼いていると、新たな敵の侵入を許してしまいかねません。

 

また、絶え間なく敵が入ってくることで“戦地”が広がれば、自分の正常な細胞や組織も傷んでしまいます。

 

こうして口だけではなく体内にまで炎症が及び、さまざまな病気を引き起こしてしまうのです【⇒画像:歯周病との関連が指摘されている疾患】

「体内の炎症」はまさにサイレントキラー

ただし炎症が起こっているといっても、花粉症や虫刺されとは違い、体内の場合ははっきりした自覚症状がありません。そのため気づきにくいのが問題です。

 

サイレントキラーという言葉を見聞きしたことがある人も多いのではないかと思います。直訳すれば静かなる殺し屋で穏やかならぬ言葉ですが、まさに体内の炎症は静かに燃え広がった挙句、ある日突然、脳や心筋の血管を詰まらせて命を奪ってしまうほどの力をもっているのです。

 

虫刺されの炎症なら数日程度でおさまりますが、体内の炎症はそのような1週間や1ヵ月のレベルではありません。何年、何十年とくすぶり続け、じわじわと細胞や組織を痛めつけるのです。

 

歯科恐怖症の患者はむし歯や歯周病を何年も放置してしまっているケースが多いので、炎症の火種を体内でずっと燃やし続けているといえます。口の中だけでなく、全身が炎症によって痛めつけられているのです。

 

 

山本 彰美

大阪中之島デンタルクリニック 院長

 

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    ※本連載は、山本彰美氏の著書『歯科恐怖症患者を救う!スゴイ無痛歯科治療』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

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    山本 彰美

    幻冬舎メディアコンサルティング

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