(※写真はイメージです/PIXTA)

歯周病や虫歯は「日本人が歯を失う原因」として代表的な疾患ですが、その恐ろしさは、単に「歯を失うこと」に留まりません。肩こりや頭痛の原因になったり、身体に力が入りにくくなったりと、身体の不調に波及することもあるのです。大阪中之島デンタルクリニック院長・山本彰美氏が解説します。

歯科疾患は「肩こり」や「頭痛」の原因にも

むし歯や歯周病になると歯が溶けたり、ぐらついたりするため、上下の歯の噛み合わせも変わってしまいます。これが体の姿勢や運動機能などに悪影響を与えてしまうことは、歯科医療従事者の間ではよく知られていますが、一般の方にはまだ周知されていないように思います。

 

運動中にどこかを痛めると、ほかのところまで痛くなってくることがあります。怪我をしたのは膝なのに膝だけでなく腰も痛くなってきたとか、足首をねんざしたらふくらはぎが重だるくなったとか、皆さんも経験があると思います。

 

これは、負傷したところをかばうために、普段は使っていない筋肉を使うことになるからです。この状態を「代用」といいます。

 

実は歯に問題があるときにもこれと同じことが起こります。実際、原因不明の肩こりや頭痛が実は歯痛によって引き起こされていたということはよくあります。

 

ここにも噛み合わせが関係してきます。噛み合わせが悪いと本来使うべきではない筋肉を使うことになるので、そこに慢性的な疲労がたまって痛みになるのです。

 

例えばむし歯があるためにものを噛むことができず、反対側の歯ばかり使って噛んでいたとしたら、顎もだんだんよく噛んでいるほうへずれていきます。それに伴い顎とつながっている首、肩、背中も引っ張られ、力のかかり方が偏って疲労しやすくなり、こりや痛みにつながるというわけです。

 

歯周病のように痛みがあまり出ない疾患でも、身体の不調に波及することがあります。

 

歯がぐらぐらしてうまく噛めないために左右バランス良く噛む力をかけることができず、どちらかに負担がかかってしまうからです。むし歯の例と同様、顎も不安定になり位置がずれやすくなります。そうなればやはり顎からつながっている首や肩にも負担がかかります。

 

噛み合わせが悪いと普段の姿勢も悪くなります。姿勢を維持する筋肉が正しく使われなくなるからです。

 

代用している筋肉にとっては“本来の業務”とは違うことをしているわけです。そのため最初のうちはよくても、だんだん無理がたたって、時間の経過とともにその筋肉も疲労してきます。

 

すると今度は疲労した筋肉の周囲の筋肉を代用して…と、次第に無理な動きが連鎖し広がっていきます。つまり筋肉のこりや痛みもどんどん広範囲に波及していくのです。

 

関節や骨に異常はありませんので、肩こりだ、腰痛だと整形外科に行っても、原因不明と言われせいぜい湿布などの対症療法で終わってしまうのが関の山です。最近は歯のことを聞いてくれる医師も増えてきたと聞きますが、まだまだ少数派と思われます。

 

医師の間でも体の不調の原因の一つに歯科疾患があることは、まだ十分に知られていないのです。

 

マッサージや整体に通ってもそのときは楽になるかも知れませんが、そもそも噛み合わせのせいで姿勢が悪くなっているのが原因なのですから、それが改められない限りは不調の根本的な解決にはなりません。

顎がしっかりしないと、力が入らない

重いものを持ち上げるときや全力でジャンプするとき、無意識のうちに口元に力が入っています。

 

これは実は顎を安定させるための自然な動作です。運動のパフォーマンスを上げるためには、顎の位置が意外と重要なのです。

 

試しにまっすぐ前を見て、拳をえいやっとすばやく突き出してみてください。その瞬間、自然と口の周り、特に下顎から首にかけてぐっと力が入る感じがすると思います。

 

逆に口を半開きにして顎をぐらぐら動かすなど、わざと口周りに力が入らないようにして同じように拳を突き出してみると、なんとなくさっきよりは勢いが出ず、力も込めにくいように感じるはずです。

 

顎は首につながっており、首から体幹にかけては脊椎が通っていて、前後左右の姿勢のバランスをとっています。つまり顎の位置が定まると首や、肩、背中の筋肉を安定させて体の軸がぶれなくなることで、強い力が出るようになるのです。

 

逆に顎がぐらぐらしていたらそれを支える首から下もぐらついてしまいますし、その状態から姿勢のバランスをとるために筋肉が緊張すれば、余計な負荷がかかってしまいます。

 

さらに体の軸がしっかりすると、前後左右のバランスがとりやすくなります。重心も安定しますので、ふらついたり転んだりしにくくなります。

 

顎の位置が定まれば首や頭部もぐらぐらすることがなくなりますので、視線も定まります。それでは顎を安定させるにはどうしたらいいか。ここで重要なのが「噛み合わせ」です。上下の歯が正しく噛み合えば、顎は噛み合ったところで位置が決まり、前後左右にぐらぐらすることはなくなります。

 

例えばラグビーなどの敵と激しくぶつかり合うようないわゆるコンタクトスポーツの選手はマウスピースを着用していますが、これは歯を外からの衝撃から守るためであるとともに、上下の歯を正しい位置で噛み合わせて顎を安定させるためでもあるのです。それによってここぞというときに、高い筋力を発揮することができるのです。

 

アスリートに限らず一般の人にとっても日々の生活のなかで、顎の安定、すなわち歯がきちんと噛み合っていることがとても大事なのです。

 

特にむし歯や歯周病のない健康な人でも、噛み合わせに問題のある場合があります。それは姿勢が悪くて左右どちらかに傾きがちだったり、スマホの見過ぎで猫背だったりなど、生活習慣の影響が少なくないといわれています。

噛み合わせをセルフチェックする方法

参考までに噛み合わせの良し悪しを自己判断する簡便な方法を紹介します。

 

まず割りばしを用意します。それを左と右の奥歯の少し手前側で噛み、鏡を見てみましょう。割りばしが水平にならず、傾いたりゆらゆらしたりしたら噛み合わせが悪い可能性があります。

 

むし歯や歯周病で口腔崩壊を起こしているような場合はなおさら、噛み合わせにも深刻な問題が生じているといえます。

 

口腔崩壊=歯がほとんどない状態なので、どこで噛んでいいか分からないため、顎の位置は常に不安定なのです。奥歯がなければ毎回、噛む位置が変わってしまうのです。

 

実際、歯科治療で歯を削ったあとに咬合紙という赤いシートをかちかちと噛んでもらいますが、口腔崩壊を起こしている口では、かちかちするたびに噛む位置が違ってしまいます。また噛んだときの高さ(深さ)も合いません。

 

顎の位置は上下の歯の噛み合わせバランスによって安定しています。むし歯になった位置が噛み合わせ部位だとしたら、少しずつ歯の表面が削られていくことにより、噛み合わせもずれていきます。また片側だけのむし歯の痛みなどで反対の歯で噛めばよいという状態(片側噛み)が続くと、顎がずれていくことはいうまでもありません。

 

 

山本 彰美

大阪中之島デンタルクリニック 院長

 

※本連載は、山本彰美氏の著書『歯科恐怖症患者を救う!スゴイ無痛歯科治療』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

歯科恐怖症患者を救う!スゴイ無痛歯科治療

歯科恐怖症患者を救う!スゴイ無痛歯科治療

山本 彰美

幻冬舎メディアコンサルティング

歯医者に来ると身震いしてしまう。怖くて口を閉じてしまう…。 そんな歯科恐怖症で悩む患者を救う! 眠っている間に治療が終わり、長期通院も必要なし! 痛みと恐怖心を取り除く無痛歯科治療とは?

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