(画像はイメージです/PIXTA)

最近では、メンタル不調からうつ病となり、退職に至るサラリーマンが増えています。うつ病が原因で日常生活や仕事ができなくなったとき、障害年金をもらうことができます。今回は、障害年金の仕組み、障害年金の申請方法について見ていきましょう。自身もFP資格を持つ、公認会計士・税理士の岸田康雄氏が解説します。

「夫が、うつ病で働けなくなってしまって…」

生徒:先生、私の夫が、うつ病になって働けなくなってしまいました。なにか、公的機関からもらえるお金はないでしょうか?

 

先生:そうなんですね。すぐに回復できる見込みがなければ、公的な制度を活用したほうがいいですよ。国からもらえるお金には3種類あります。「傷病手当金」「雇用保険の失業給付」「障害年金」の3つです。これに加えて、障害手帳をもらって自立支援制度を申請すれば、さまざまな割引特典がありますよ。

 

先生:傷病手当金とはなんでしょうか?

 

先生:傷病手当金とは、会社員が病気で休職したときに、協会けんぽなどの健康保険から支給されるお金のことですよ。休職中は1年6ヵ月間にわたって、月給の約3分の2が支給されます。

 

[図表1]傷病手当金のイメージ

 

生徒:健康保険にそんな制度があったんですか! それなら、1年6ヵ月は休職すればよかったです…。実は、夫はすでに会社を退職してしまったんです。

 

先生:それなら、雇用保険の失業手当をもらうことになりますね。これは、働く能力と意思がある人が就職活動するときにもらえるお金なんです。申請のあと、7日間の待機期間に加えて、2カ月間の制限期間を置いて失業認定を受けたら、失業手当をもらうことができますよ。ご主人は、すぐに転職活動を開始したいと思っていますか?

 

生徒:いいえ。しばらくは自宅で、しっかりと療養に専念したいと考えています。

 

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先生:なるほど。そうであれば失業手当はもらえないので、いったん失業手当の支給を保留する申請をおこなう必要がありますね。働けるようになるまで、最大3年間は支給を待ってもらうことができますよ。ところで、うつ病で働けないということですが、どんな状況ですか?

 

生徒:夫は、気分の「落ち込み、行動意欲の喪失、ときには思考に障害が出る期間が生じることがあり、それらが繰り返す状況です。障がい者手帳の交付も受けています。「精神障害者保健福祉手帳」の3級です。

 

先生:それなら、税金の控除のほか、交通機関や公共施設の利用、携帯電話料金で「障がい者割引」が受けられたりしますね。あと、「自立支援医療」の申請はしましたか?

 

生徒:自立支援医療ってなんでしょう?

 

先生:これは精神疾患の医療費が、3割負担から1割負担に軽減される制度です。市区町村役場の障害福祉課へ、医師の診断書を持って行くともらえます。

 

生徒:正直、割引よりもお金がほしいのですが…。何か利用できる制度はあるでしょうか?

 

先生:ご主人の場合、障害年金をもらうことができます。これは、64歳までの現役世代であっても受け取ることができる年金制度です。障害1級から3級ごとに金額は異なりますが、国民年金と厚生年金の両方の制度からお金がもらえますよ。

 

生徒:えっ、そうなんですか! まったく知りませんでした。詳しく教えてください。

障害基礎年金」と「障害厚生年金」の仕組み

先生:1つは、国民年金からもらえる障害基礎年金。これをもらう条件は、初診日に国民年金または厚生年金の被保険者であること、障害認定日に1級または2級の障害があることです。加えて、保険料の納付要件を満たしている必要があります。

 

生徒:夫は3級だから、障害基礎年金はもらえないんですね。ちなみに、保険料の納付要件とはどのようなものでしょうか?

 

先生:保険料納付済期間と保険料免除期間を合算した期間が、被保険者期間の3分の2以上あることと、初診日の前々月までの1年間に保険料の未納がないことですね。

 

先生:参考までに教えてください。障害1級と2級の方は、基礎年金をどのくらいもらえるのでしょうか?

 

先生:2022年に支給される基礎年金だと、2級で約77万円、毎月6万5,000円くらいです。1級は1.25倍になるから約97万円で、毎月8万円ちょっとですね。ただし、18歳未満の子どもがいる場合には、2人目まで1人につき223,800円、3人目以降は1人につき74,600円が加算されることになります。

 

生徒:わかりました。私の夫は会社員でしたから、厚生年金にも入っていました。

 

先生:それなら、もう1つ、障害厚生年金が支給されることになります。こちらの受給要件は、初診日に厚生年金の被保険者であること、障害認定日に1級、2級または3級の障害があることです。保険料の納付要件は、基礎年金と同じですね。

 

生徒:それなら、3級の夫は厚生年金をもらうことができそうです。いくらもらえるのでしょうか?

 

先生:支給される年金額は、ちょっと複雑な計算がおこなわれます。

 

2003年4月以降に厚生年金に加入して、被保険者期間の月数が200ヵ月とすれば、「平均標準報酬額÷1,000×5.481×200ヵ月」という計算になりそうですが、300ヵ月に満たない場合は「300ヵ月」で計算することになっています。たとえば、平均標準報酬額が30万円だとすれば、3級の場合だと約49万円で毎月4万円ちょっとという計算になりそうですね。

 

生徒:えっ、そんなに少ないんですか!

 

先生:そうですね。3級の場合は最低保障額が設けられていて、約58万円はもらえます。ただ、それでは毎月4万8,000円くらいにしかなりませんが…。ちなみに、1級だとその1.25倍です。あと、1級または2級の人で65歳未満の配偶者がいる場合には、223,800円の加算年金がもらえるのですが、3級だと、残念ながらもらえないようです。

 

出典:厚生労働省「障害年金関係のパンフレット」
[図表2]障害基礎年金・障害厚生年金の等級と年金額(令和4年度版) 出典:厚生労働省「障害年金関係のパンフレット」

 

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「障害年金」の具体的な申請方法の流れ

生徒:先生、障害年金の申請はどのようにおこなうのでしょうか? 簡単に申請できるものなのでしょうか?

 

先生:いや、それがまた難しくて…。最初に障害年金の受給資格があるかどうか、年金事務所にも電話して確認しておいたほうがいいですよ。受給資格は、先ほどお話したとおり、初診日に健康保険に加入していて、保険料をきちんと支払っていて、障害認定されるということなんです。学生時代に保険料が未納で要件を満たせなかったり、退職したあとに病院で初診を受けていたりすると、要件を満たせないからアウトですよ!

 

生徒:具体的な手続きはどうしたらいいのでしょうか?

 

先生:初診を受けた病院に「受診状況証明書」を書いてくれるように依頼しましょう。うつ病だからといって初診が精神科であるとは限らないので要注意ですよ。

 

生徒:確か、最初は内科のお医者さんを受診して、そこで紹介状を書いてもらって精神科のお医者さんを受診したと思います。

 

先生:次に、初診日から1年6ヵ月経過した日が〈障害認定日〉となるから、その日から3ヵ月以内に、医師に「診断書」を書いてもらいます。役所の書類審査だけの障害年金は、医師の診断書が障害等級の判定結果を左右するといえます。医師には権威性がありますからね。

 

その一方、自分で「病歴就労等申立書」に病歴を書きます。発病してから申請時までの病状や通院歴などです。これを書いて提出するのは「初診日の証拠書類のひとつとして補強するため」「治療の経過を伝えて障害状態が継続していることを伝えるため」「診断書だけでは伝えられない障害状態や必要な援助を伝えるため」という3つの目的があります。わかりやすく丁寧に書いたほうがいいですね。

 

生徒:状況や通院歴というのは、具体的にどのようなことを書けばいいのでしょうか?

 

先生:そうですね、通院または入院していた病院、その期間、診察を受けた回数、どのような治療を受けていたか、医師からの指示、日常生活や仕事の状況などですね。障害年金の支給は、病気の重さではなく、それによってどれだけ生活に支障をきたしているかによって決まるので、その点をはっきり書いておいたほうがいいでしょう。

 

生徒:わかりました! 書類を提出してから、審査結果が出るまで、どれくらいの期間がかかりますか?

 

先生:最低でも3ヵ月くらいです。長いと1年近くかかるケースもありますよ。

 

生徒:ありがとうございます。早速、夫と相談してみます。

 

 

岸田 康雄
国際公認投資アナリスト/一級ファイナンシャル・プランニング技能士/公認会計士/税理士/中小企業診断士

 

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