「息子が、家を売って遺産を分けろと…」夫の死後、自宅を追われる妻が繰り出す〈対抗策〉 (画像はイメージです/PIXTA)

夫が亡くなったあと、妻がこれまで暮らしていた家を遺産分割で失っては大変です。そこで民法では、夫の相続が発生したときに妻が当然に自宅に住み続けられるという「配偶者居住権」という権利を定めています。具体的に見ていきましょう。自身もFP資格を持つ、公認会計士・税理士の岸田康雄氏が解説します。

「亡き夫の財産を、息子が〈平等に分けてくれ〉と…」

生徒:先日、私の夫が他界しました。私と息子の2人が相続人となります。相続財産は、自宅と銀行預金2,000万円だけです。

 

先生:ご自宅の評価額はどれくらいかわかりますか?

 

生徒:金融機関の方から聞いたところ、建物が約1,000万円、土地も約1,000万円とのことでした。遺産総額は合計で4,000万円ですね。

 

先生:息子さんはどのように分けたいとおっしゃっていますか?

 

生徒:息子は平等に分けてほしい、自宅は母親の私が取得してよいから、預金2,000万円を自分に取得させるようにというんです。ですが、そうすると、私のこれからの生活費が足りなくなりそうで心配なんです。

 

先生:なるほど。その場合「配偶者居住権」だけを取得するように分割すればいいですよ。

 

★配偶者居住権についてはこちらをチェック

相続が発生した場合の配偶者居住権と不動産所有権の違いをわかりやすく解説

生徒:配偶者居住権とは何ですか?

 

先生:配偶者居住権とは、亡くなった人が所有していたご実家の建物に、その配偶者が住み続けられる権利です。その配偶者が、建物の所有権を丸ごと取得したときには、配偶者居住権だけ取得する必要はありません。所有権を取得したのが別の人である場合にのみ、配偶者居住権だけ取得するという方法をとるのです。

 

生徒:具体的に、どういう分け方をするのでしょうか?

 

先生:そうですね、奥さんは建物の配偶者居住権と土地の敷地利用権だけ取得することとしましょう。それらの評価額を500万円ずつ、合計1,000万円だとすれば、建物の所有権500万円と土地の所有権500万円を息子さんが取得することになります。合計1,000万円ですね。

 

生徒:預金2,000万円はどうなりますか?

 

先生:それを1,000万円ずつ分けてはいかがですか? そうすれば、合計して2,000万円ずつ分割することになりますから、息子さんが希望される平等な分割が実現できますよね。

 

[図表]配偶者居住権のイメージ

「短期居住権」と「長期居住権」

生徒:わかりました。その分割で息子が合意しないときはどうしましょう? 私は息子から家賃を支払うようにいわれることになるのですか?

 

先生:そちらも安心してください。配偶者居住権には、短期居住権と長期居住権があります。短期居住権というのは、配偶者の死亡したときには、最低6ヵ月間、または、遺産分割協議がまとまるまでのあいだ、自宅に無償で住み続けられる権利です。

 

生徒:私には短期居住権があるので大丈夫だということですね。

 

先生:そうですね。

 

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長期の配偶者居住権は「登記」する必要がある

生徒:今回の相続では、私が長期の配偶者居住権を取得すれば、建物の所有権を息子に取得させても、私はこれまでどおり、無償で自宅に住むことができることですね? 何か手続きはありますか?

 

先生:配偶者居住権は登記しなければいけませんよ。権利部の乙区に「配偶者居住権設定」という目的を記載することになります。

 

生徒:建物が他人に売却されてしまった場合は、私はどうなるのでしょうか?

 

先生:配偶者居住権の設定登記をしておけば、そのまま住み続けることができますよ。

 

生徒:そのうち私にも相続が発生しますよね。そのときは、配偶者居住権を息子に相続することになるのですか? その場合の相続税はどれくらいかかりますか?

 

先生:ビックリするかもしれませんが、配偶者居住権には相続税がかからないのです。もしご主人から奥さんまたは息子さんが所有権を丸ごと相続していれば、建物を100%評価して相続税を支払っていたはずですが、建物の配偶者居住権を設定することで、相続税の支払いが無くなるのです。その一方で、敷地利用権には相続税がかかりますよ。

 

生徒:そうなんですね! 相続税の節税にもなりますね?

 

先生:いいえ。そうとは限りません。確かに建物の相続では節税になりますが、土地のほうでは税負担が重くなる可能性があるのです。配偶者居住権を設定することで、お子さんが持ち家を持つことになるため、次の相続でお子さんが「家なき子」と呼ばれる小規模宅地等の特例を適用することができなくなるからです。

 

生徒:そうなんですね! 相続税対策は難しそうですね…。でも、配偶者居住権を設定することを遺言書に書いておくことはできたのですか?

 

先生:そうですね、遺言書に書くこともできましたよ。

 

生徒:そうなんですね…。ありがとうございました。

 

 

岸田 康雄
国際公認投資アナリスト/一級ファイナンシャル・プランニング技能士/公認会計士/税理士/中小企業診断士

 

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    公認会計士/税理士/宅地建物取引士/中小企業診断士/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定)

    平成28年度経済産業省中小企業庁「事業承継ガイドライン委員会」委員、令和2年度日本公認会計士協会中小企業施策研究調査会「事業承継支援専門部会」委員、東京都中小企業診断士協会「事業承継支援研究会」代表幹事。
    一橋大学大学院修了。中央青山監査法人にて会計監査及び財務デュー・ディリジェンス業務に従事。その後、三菱UFJ銀行ウェルスマネジメント営業部、みずほ証券投資銀行部M&Aアドバイザリーグループ、メリルリンチ日本証券プリンシパル・インベストメント部不動産投資グループなどに在籍し、中小企業の事業承継から上場企業のM&Aまで、100件を超える事業承継とM&A実務を遂行した。現在は、相続税申告と相続・事業承継コンサルティング業務を提供している。

    WEBサイト https://kinyu-chukai.com/

    著者紹介

    連載本気で考えたい!「相続」特集 ~公認会計士/税理士・岸田康雄氏

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