(画像はイメージです/PIXTA)

資産家の母親は、同居してくれた長女に感謝し、自宅不動産を相続させるよう遺言書を残し、亡くなりました。長女は相続手続きのため、兄である関西在住の長男に連絡したところ、なんと、業績不振で早期退職し、自宅に戻って暮らすといいます。長女は阻止したいと考えますが、仕事をなくした長男が生家で暮らす権利はあるのでしょうか? 高島総合法律事務所の代表弁護士、高島秀行氏が解説します。

相続開始~遺産分割協議成立までも、住めない可能性

「相続人が実家で親と同居していた」あるいは、「実家に相続人の部屋がある」ということはよくあると思います。

 

そのような場合に、その相続人は、実家に住み続ける権利があるのかということがよく問題となります。

 

本件は、その問題となります。

 

本件では遺言書があるのですが、遺言のない遺産相続のケースで、被相続人と同居していた相続人についての最高裁判例があります。

 

最高裁判例では、「被相続人の生前から同居している相続人は、被相続人が亡くなった後も、遺産分割協議が成立して建物の所有者が確定するまでは無償で使用させる合意があったものと推定される」として、被相続人の生前から被相続人と同居しているケースでは、相続開始後遺産分割協議成立するまでは、無償で住むことができるとしています。

 

本件では、実家に太郎さんの部屋があるだけで、被相続人である陽子さんと太郎さんは同居していません。

 

したがって、生前から同居していることを前提とする最高裁判決の判断が適用されず、そもそも、相続開始後遺産分割協議成立までの間も住むことができない可能性があります。

 

また、仮に、実家に太郎さんの部屋があることは、実家で同居しているのと同じで、前記最高裁判決の判断が適用され、相続開始後遺産分割協議成立するまでは無償で住むことができるとしても、本件では遺言書があります。

 

遺言書では、実家である世田谷の自宅の土地建物を花子さんに相続させるとしており、遺産分割協議をするまでもなく、建物の所有者が確定しています。

 

したがって、実家に太郎さんの部屋があることで、前記最高裁判決の理屈が適用されるとしても、遺言書により建物の所有者が確定しているので、無償で使用できる期間は終了したということとなります。

 

よって、本件では太郎さんは、実家の使用権はなく、実家に住むことはできません。

 

そこで、「世田谷の自宅は、遺言書により花子さんのものとなることが確定していることから、太郎さんには使用権がなく、花子さんは太郎さんが住むことを拒否することができる」とする選択肢③が正解となります。

 

他方、「会社をリストラされた太郎さんは気の毒だから花子さんは太郎さんを家に住まわせなければならない」とする選択肢①と「世田谷の自宅は、いまでも太郎さんの部屋があるし、生まれ育った家なのだから太郎さんには住む権利がある」とする選択肢②は、誤りということとなります。

 

なお、前記最高裁判決では、「被相続人の生前から同居している相続人は、被相続人が亡くなった後も、遺産分割協議が成立して建物の所有者が確定するまでは無償で使用させる合意があったものと推定される」としており、あくまでも推定なので、例えば、同居している相続人が障碍のある子どもだったり、病気の子どもだったりした場合は、遺産分割協議や遺言書で、建物の所有者が確定したとしても、被相続人はその後も使用させる意思があったと考えられることから、継続的に無償で使用できる可能性があると考えます。

 

 

※プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

高島 秀行
高島総合法律事務所
代表弁護士

 

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