「わが子の将来のため…」募る思いで大きな出費
先の見えない不況、パンデミック。そして、AI化の進展によって今後どう変化するかわからないビジネス環境。このような時代を生きるには、何より自分の知恵や能力を磨くことが必要だ。
これからを生きる若い世代はもちろんのこと、大切なわが子を育てている親も、同じ思いを持っているのではないだろうか。
人生においては、保険・マイホーム・教育費が三大出費といわれているが、そのなかでも教育費は特別だといえる。保険やマイホームなど、実態があるものとは異なり、子どもの可能性は未知数で、教育についても、どのような成果や効果が得られるか、やってみなければわからない部分が大きいからだ。
勉強しなければ。体も鍛えなければ。語学力も、芸術的センスも…と、子どもの可能性と才能を探すうち、いくらでも積み上がってしまう。
そして、高収入な親ほど子どもの教育には熱心な傾向が見て取れる。
文部科学省の統計から、年間の学費総額を見てみよう。
年間学習費総額
(学費のほか、家庭内学習費などの学校外活動費の総額)
公立幼稚園:22万3,647円
私立幼稚園:52万7,916円
公立小学校:6万3,102円
私立小学校:159万8,691円
公立中学校:48万8,397円
私立中学校:140万6,433円
公立高校 :45万7,380円
私立高校 :96万9,911円
文部科学省『子供の学習費調査(平成30年度)』
金額の差は歴然だ。さらに大学はどうかというと、文部科学省『国立大学等の授業料その他の費用に関する省令』『私立大学等の令和元年度入学者に係る学生納付金等調査』によれば、初年度の国立大学の納付金は81万7800円、私立大学は文系が117万2582円、理系が154万9688円となっている。
仮に3年保育の幼稚園から大学(文系)まで私立を選ぶと、子ども1人当たり、総額2,200万円ほどになる計算だ。2人なら4,000万円超、3人なら6,000万円超。
この金額が、20年ほどの時間をかけてかかってくる。子どもの教育にかかるお金は、かくも巨額なのだ。
また、親が高給取りであるほど私立志向が強いことも、数字から判明している。公立、私立、それぞれの年収1,000万円世帯の割合をみていくと、幼稚園では公立6.7%に対し私立18.2%、小学校では公立14.2%に対し私立64.6%、中学校では公立15.6%に対して私立52.3%、高校では公立13.9%に対し私立26.5%。
学費の高い私立学校に期待するのは、当然ながら「質の高い教育」だろう。わが子のために、潤沢な収入を惜しみなく教育費に注ぎ込む親の姿が見える。
教育熱心が過ぎれば、破産も現実問題に
幼稚園、小学校の子どもを育てる世代であれば、30代といった年齢層だろう。厚生労働省『令和3年賃金構造基本統計調査』によれば、従業員1,000人以上企業の30代後半・部長の月収は63.5万円、手取りにすると45万円ほどで、年収1,000万円超となる。
年齢別「大企業・部長クラス」の給与
25~29歳:300,400円/5,090,800円
30~34歳:595,500円/8,905,100円
35~39歳:635,800円/10,009,200円
40~44歳:714,300円/11,508,100円
45~49歳:716,100円/11,959,700円
50~54歳:760,500円/12,861,400円
55~59歳:764,300円/12,763,000円
出所:厚生労働省『令和3年賃金構造基本統計調査』より算出
※数値左より、月収(所定内給与)/推定年収。従業員規模1,000人以上企業
おそらく30代の部長なら、会社でもかなりの出世頭のはずである。会社で評価され給料も高く、自身の伸びしろもまだまだある。かわいい子どもによい教育を受けさせようという思いも、ひときわ大きくなるのではないか。
結婚、出産の平均値から考察すると、30代後半なら第1子が幼稚園くらいのケースが多い。そこから、小学校受験、中学受験、海外留学…と、次々目標が増えていく。
勉強はもちろん、英会話やスポーツ、ピアノやバレエといった高額な芸術系の習い事も積み重なれば、教育費はどんどん上昇する。子どものための投資は止まらない。
そこで問題になるのが、定年前に訪れる「破綻の危機」だ。大学進学まで膨張する教育費は、親の老後資金形成の大きな足かせとなる。大学や大学院へと進学した子どもが無事に卒業することには、定年が見えてくる年齢となっている。
「子どものため」と近視眼的になっていれば、家計の状況にまでは気が回りにくい。子どもたちが巣立ったあと冷静になり、危機的状況に愕然とする。子ども思いで教育熱心なのは素晴らしいことだが、親自身の将来の生活基盤を見失うことがないよう、十分な注意が必要だ。
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