インフレによって従業員の生活は成り立たなくなる
第二に、赤字企業は従業員に支払う給料も安くなります。もしかすると従業員にとても高い給料を支払っているために、人件費がかかり過ぎて赤字になっているという会社も世の中には存在するのかもしれませんが、私はあまり見たことがありません。
赤字の会社はたいてい、「給料が安くて申し訳ないけど、会社が赤字だから我慢してくれ」と言って、従業員に低賃金労働を強いているはずです。
これまでのようにデフレ社会で物価が下がっていくのであれば、給料がほとんど上がらなくても購買力は実質的には増えていくのでそれで我慢してくれた人もいたかもしれません。しかしこれからはインフレで物価が上がっていくので、賃上げしないと従業員が生活できなくなるのです。
そうなったときに従業員がどうするのかといえば、だいたいはもっと高い給料がもらえる職場を探して転職していきます。
誰だって仕事はお金のためだけにやっているわけではなく、その人にとって好きな仕事や楽しい仕事、やりがいのある仕事を選ぶものですが、健康で文化的な最低限度の生活ができる給料が支払われることが基本条件です。それが満たされなければ、やりがいも楽しさもどこかに消えてしまいます。
仕事を覚えていて経験豊富で頼りになる従業員を失わないようにするためにはどうすればよいのか――答えは賃上げです。
そして賃上げをするその原資をどのように得ればよいのかといえば、値上げしかありません。
ただでさえ世の中は少子化で人手が不足しています。値上げをしなくても数多く売れるようになればよいと考える人もいるかもしれませんが、数を多く売るためには数多く作れるように生産態勢を整えておかなくてはなりませんし、それだけの人員を確保するためには賃上げが不可欠なのです。