いまより少しでも“マシ”な社会をつくるために
「これまでの資本主義」が抱えるリスク
そもそも、資本主義とはなんでしょうか。わかりやすく言えば、資本主義とは、個人が働いたらその労働力に応じて報酬が得られるというシステムであり、自由主義経済とセットで語られるものです。つまり個々人の自由な経済活動なくして資本主義はあり得ません。自由競争が主体となる社会ですから、資本主義経済においては成功すれば多くの富を手にするかもしれませんが、失敗すれば失業や生活苦のリスクもあります。
この資本主義の対極にあるのが、社会主義経済です。社会主義は資本主義、自由主義を否定し、富はみんなで平等に分けようという社会システムです。いろいろな方法論が唱えられていますが、世界で実現したのはたとえば旧ソビエトや中国などの全体主義国家が行なった、富を集約し、再分配するタイプの社会主義です。
いま、「資本主義は終わった」「マルクス主義の見直しを」という論調になっているのは、資本主義経済の歪みが大きくなりすぎたこともあるのでしょう。
そう簡単には変わらないが…「これからの日本」をつくるための考え方
さあ、ここで妄想の翼を広げてみましょう。資本主義経済の歪みが大きくなるということは、貧富の差が拡大するということ。つまり、富める者と貧しい者が分断されて格差が拡大している。だからこそ、この現状を打開する何かを人々は求め、日本のリーダーである岸田総理も求めているのでしょう。
ここまでイメージできれば簡単で、いま、日本に必要な新しい資本主義社会では、現状の資本主義が抱える問題を解決できる必要があります。それに当てはまりそうなものといえば、正解は③ですよね。
つまり、社会貢献や利他性によって運営される社会であれば、経済競争だけに力点が置かれ、経済的に弱い立場の人が不利益を被るという構造を解決できるわけです。
岸田総理が目指したいのは、そういった構造を打破する社会なのでしょう。現実的には結局、投資に力を入れるような政策を立て続けに発表しており、貧富の差はますます開きそうですけれども。①は貧富の差がますます開く従来型の資本主義ですから、これを選んだ方は不正解。②は話題がコロナのみになってしまっているので、これも正解とはいえません。
僕たちがここで踏まえておくべきは、一国の総理が一見正しいような方向性を打ち出したけれど、現実とは乖離しているということ。政治家や学者がいかに旧来の資本主義の終焉を囃(はや)し立て、新しい資本主義を標榜しても、これまでの資本主義はそう簡単にはなくならないでしょう。
ただ、その中でも社会貢献や利他性という考え方が1つの新しい産業になり、どんどん高度化していく社会が生まれれば、少なくともいまよりマシな社会になるかもしれません。
次の時代を生きる若い読者の妄想の翼は、社会貢献や利他性によって運営される社会の構築のために広げられるべきです。
茂木 健一郎
理学博士/脳科学者
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