順番がわからないだけでなく、数の概念自体があやふやになったらしく、作業療法士のリハビリではお金を使う練習もしていた。
実際に使う練習もということで、病院内のコンビニで買い物もした。がま口に千円札を3枚入れて渡すと、一人で飲み物などを買ってくる。ちゃんと買い物できた、と思ったが、日に日にがま口が重くなっていく。小銭を出せないので、毎回お札を使っているのだ。
おお、なんかこれ、覚えがあるぞ。海外旅行でうまく小銭が出せなくて、お店であせってついお札ばかり出しちゃって、おつりがジャラジャラたまっていく、あの感じだぞ。
これでは練習にならない。オットと一緒にコンビニに行き、店員さんに「小銭を出すのに時間がかかりますが、よろしくお願いします」とご挨拶した。
しばらくすると、がま口の小銭がスルスルとなくなった。
「ちゃんとお金出せるようになったね」とオットに言うと、コンビニの店員さんが根気よく待ってくれるだけでなく、「それと、これですね」と手伝ってくれるという。がま口だから、口が大きく開いて中が見えやすいのだ。
そのがま口は、友達が旅のおみやげにくれたものだった。退院してから彼女にその話をすると、「私もお財布の中を人に見てもらうことあるから」と言われた。視覚に障害がある彼女のチョイスのおかげで、オットは自然に人に頼ることができたのだ。