「為替の制約」から解放され、日銀はフリーハンドに
日銀は何故フリーハンドなのかと言えば、為替市場に配慮する必要がまったくないからである。円暴落の心配はない。また円高へのバッファーは十分である。ジョージ・ソロス氏のポンド売りに敗れた1992年のイングランド銀行(BOE)とは違うのだ。
投資家、企業に無力感を強いる「YCC批判者」こそ日銀の敵
メディアのコメントは混迷、株式市場も惑わされて気迷いが続いている。今回の措置の評価は戦術論ではなしえない。
日銀が何と戦っているのか、日銀の勝利とはどのような状態であり、それに近づいているのか否か、という物差しが必要である。日銀はデフレと戦っているのであり、デフレのリスクを軽視(または無視)する異次元金融緩和の批判論者と戦っている。
YCCは悪、失敗すると言い続けてきたメディアや多数派のエコノミストは、「失敗する2%インフレの定着は無理だから、リスクテイクはするな」と投資家と企業のアニマルスピリットを抑制し続けてきた。
日経新聞金融政策・市場エディターの大塚節雄氏は「YCCは異次元の金融緩和の敗走、今回の変更は異次元緩和「解体」の始まり」(12月21日)と論評し、人々に警戒するよう呼びかけているが、まったく間違った決めつけである。YCCは異次元金融緩和スキームの深化であり、正当な金融政策である。
異次元金融緩和とは、日銀による市場コントロールの強化であり、表面的には市場機能を阻害するように映る。異次元金融緩和批判論者は、YCCは日銀による究極の市場コントロール、モラルハザードであり教科書的に望ましくない、と市場機能の阻害を指摘するが、そもそも市場がリスクテイクの舞台としてまったく機能しなくなっていたので、異次元の劇薬が必要になったのである。
デフレからの完全脱却という日銀の最終目的のためには正しく、おそらく唯一の経路なのだ。そうした戦略論無しの日銀政策批判は、大衆を惑わす以外の何物でもないことを強調したい。
かつてYCC・長期金利の固定化は1940年代末の米国で実施されたが、当時の米国株式はバリュエーションが歴史的安値にあった。つまり大恐慌と戦争という事態にあって、投資家のアニマルスピリットは壊れていた。
しかし下図に見るようにYCCが終焉した後の1951年以降、米国株式は急騰を始めた。こうした歴史上の教訓を想起するべきである。
武者 陵司
株式会社武者リサーチ
代表
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