夫婦で年金を繰り下げて、損することはありますか?
◆扶養家族がいる人が受け取れる年金がある
厚生年金の被保険者期間が20年以上ある人が、65歳で老齢厚生年金の受給を開始した時に、扶養している65歳未満の配偶者がいると、その配偶者が65歳になるまで、「加給年金」を受け取ることができます。
受給できる金額は、年間22万3,800円で、配偶者の生年月日に応じて3万3,000~16万5,100円の特別加算がプラスされます。加給年金は、扶養している配偶者が65歳になると、支給停止になります。
その代わり、配偶者が1966年4月1日以前生まれだと、65歳から「振替加算」一生涯受け取れます。
◆繰り下げにより受け取れなくなる
加給年金と振替加算は、繰り下げ受給と密接な関係があります。その理由は、年金を受給していないと受け取れなくなるからです。
図表1は、夫65歳・妻60歳の夫婦が、2人とも70歳まで年金を繰り下げた場合、加給年金と振替加算の受給がどう変化するのかです。夫が70歳まで年金を繰り下げると、妻は65歳になるため5年分の加給年金、約194.5万円を全額受給できなくなり、その分を繰り下げ増額分でまかなおうとすると約2年8カ月かかります。
妻の場合は、5年分の振替加算、約7.5万円を受給できませんが、繰り下げ増額分3カ月で取り戻すことができます。
また、振替加算は繰り下げ受給開始後、一生涯受け取れます。
《繰り下げで「加給年金」と「振替加算」の受給はどう変わる?》
年金を繰り下げすると、加給年金・振替加算は受け取れなくなります。振替加算は受給額が少なく、一生涯受け取れるため、繰り下げ期間中受け取れなくても受給額への影響は比較的少なく済みます。
★夫:昭和32年(1957年)6月生まれ(65歳)
繰り下げによる年金額(42%の増額)248万7,840円(月額20万7,320円)
本来年金額175万2,000円(月額14万6,000円)
★妻:昭和37年(1962年)4月生まれ(60歳)
繰り下げによる年金額(42%の増額)117万5,760円(月額9万7,980円)
本来年金額82万8,000円(月額6万9,000円)
◆繰り下げ中に加給年金を受け取る方法がある
加給年金は、受給金額が多く、受給期間も限定されているため、受け取りたい人もいるでしょう。その場合は、老齢基礎年金だけを繰り下げることで加給年金を受給できます。
図表2では、老齢基礎年金のみを70歳まで繰り下げた年金受給額が両方繰り下げた場合より、43.3万円少なくなりますが、5年分の加給年金194.5万円は受け取ることができます。
《繰り下げしながら「加給年金」を受け取る方法は?》
加給年金は、老齢厚生年金を繰り下げせずに、老齢基礎年金のみを繰り下げることで受け取れなくなることを回避できます。繰り下げ増額分は少なくなりますが、5年分の加給年金約194.5万円は受給できます。
老齢基礎年金のみ70歳まで繰り下げて、老齢厚生年金は65歳から受給開始
繰り下げによる老齢基礎年金額(42%の増額)102万2,400円(月額8万5,200円)
繰り下げなしの老齢厚生年金額103万2,000円(8万6,000円)
日本実業出版社・編
酒井富士子(回遊舎)・執筆
小泉正典・監修