日本の高齢者、100人に1人は無年金
近年、たびたびマスコミ報道で耳にする「老後破産」の問題。老後破産とは、現役を引退し年金生活となった人が、破産状態に追い込まれることを指す。『2020年破産事件及び個人再生事件記録調査』(日本弁護士連合会、消費者問題対策委員会)によれば、60歳以上の自己破産者は、全体の25%超であり、70歳以上はおよそ10%となっている。
老後破産と聞けば、給与や預貯金、その後の公的年金の金額が少ない人が心配することだと思うのではないか。
厚生労働省『令和2年度厚生年金保険・国民年金事業の概況』によると、国民年金受給者の平均受取額は月額5万6,358円、厚生年金受給者の平均受取額月額14万6,145円であり、厚生年金を受給する元会社員のなかにも、年金が10万円未満の人が約23%いる。また、厚生労働省『令和3年度 後期高齢者医療制度被保険者実態調査』によれば、無年金の人は全国に52万1,803人、65歳以上人口は約3,600万人。年金なしの高齢者は1.44%とのことなので、日本の高齢者の100人に1人以上は無年金だ。
「高給取り」の自己認識が、老後破産のリスクに
待遇のいい会社で働き、高い給与を得ている人は、当然ながら公的年金の受給額も高くなる。そのような立場の人は、よもや自分が自己破産の憂き目にあうなど、思っていもいないだろう。
だが、いくら給与が高くても、収入を上回る支出が続けば資金ショートすることになる。
とくに50代に「高給取り」だった人は注意が必要だ。
会社員生活において、給与がピークとなるのは50代。大卒で大企業に勤務する部長職なら、平均月収(所定内給与額)は74万4,600円。賞与なども含めた年収は、推定1,238万2,300円(平均年齢52.4歳、平均勤続年数25.4年。厚生労働省『令和3年賃金構造基本統計調査』より)。
数字だけ見れば、毎日の生活はもちろん、老後資産の形成も余裕に思えるが、あればあるだけ使ってしまうのが人間の性(さが)だ。自分は高額所得者であるという意識が染みついていると、定年退職後、大変なことになる。
50代は、老後の資産形成が視野に入ってくる時期だが、同時に子どもにお金がかかる時期でもある。近年では大学の学費の上昇はすさまじく、また、大学院に進学するケースも増えている。私立理系ともなれば大変な額だ。
子どもを無事に独立させると、今度は自分の定年退職時期が迫る。いまは65歳まで勤務を続ける人が多くなっているが、役職から外れたり嘱託になったりすれば、当然、収入は激減する。
このタイミングで、生活スタイルを軌道修正できた人は老後も堅調に過ごせる可能性が高いが、収入が大きく減っているのに、豪快なお金の使いっぷりが染みついている人は要注意だ。日々の生活を引き締めないと、驚くべき速さで資産は減少してしまう。
もうひとつ不安なのが、大企業の役職についていた時のプライドが捨てきれないケースだ。かつての部下から指示されることが耐えられない、関連会社への勤務にがまんならない、といったことから短気を起こすと、さらに状況は悪化する。
このご時世、よほどの事情がない限り、定年退職前の給与を維持したまま転職するのは難しい。なかには、多額の資金をつぎ込み、起業して一旗揚げようと考える人もいるが、周到な準備のないまま勢いで始めても、成功率は低い。
総務省の『家計調査』によると、高齢者夫婦の1ヵ月の収入は23万円程度で、支出は26万円程度。つまり、毎月3万円の赤字は貯蓄を取り崩すことになるが、夫婦で30年生きるとすると、1,080万円以上の貯蓄で平均的な暮らしが続けられる計算だ。
しかし、50代後半の消費支出は33万円程度。平均世帯人数や教育費の有無といった違いがあり、そのまま比較することはできないものの、この感覚で定年退職後も生活を続ければ、毎月の赤字額は10万円となり、老後資金としての貯蓄額は3倍も多く必要になる。
50代会社員は、家計を見つめ直すだけでなく、自身の意識改革も行い、年金生活に向けて「ソフトランディング」の準備ををスタートさせるべき時期にあるといえる。
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