高金利と低金利、お金が早く紙くずになるのはどっち?
先生「お金の価値が上がるか下がるかという視点から、物価や為替、金利の関係を整理しておこう」
生徒「前回の記事では、物価が上がれば為替相場も下がるっていうことだったね」
先生「そう。物価と為替は簡単だ。物価高はお金の価値が下がることだし、円安は円の価値が下がることだ(笑)。じゃあ、金利が上がるときはお金の価値はどうなっている?」
お金の価値が上がるとき、下がるとき
実は、物価、為替、金利の3つはいずれも、お金の価値を測る尺度なんだ。この3つの関係をもう一度整理しておくね。「物価が上がれば⇒金利は上がり」「金利が上がれば⇒為替高」、「物価が上がれば⇒為替安」だった。
タバコが、1箱240円から400円に上がったら「お金の価値が下がった」ということだ。つまり、物価は「ものの値段」であるとともに「お金の価値」も示している。「物価とは、お金の価値を測るための尺度の1つ」だね。
JRの初乗り運賃でもいい。現在は140円(東京電車特定区間)だけど、1980年ごろは100円だった。「あのころは安かった」とともに「あのころはお金の価値が高かった」ともいえる。
もちろん、為替相場もお金の価値を測る尺度だ。1ドル=120円から100円になると、1ドルの商品を買うときに100円でOKになったんだから、円の価値が高くなった。これも簡単だ。
問題は本連載のテーマである金利なんだ。金利が高いときと低いときとでは、どちらの方がお金の価値は下がるかを考えてみようか。これは勘違いされている人が多いと思う。「金利が高いときにはお金が増えるのだから、お金の価値は高くなっている」ってね。でもこれは、まるきり逆なんだ。
低金利=デフレの時期は「現金保有」が有利
お金の価値の上がり下がりは、「タンスにしまってある具体的な1万円札」そのものの価値がどうなるかという問いなんだよね。結論からいうと「金利が高いときには、お金の価値の下がり方は速い」んだ。
1年定期が10%のとき、1年後には預けた100万円が110万円になっている。でも、金利が1%のときには101万円だ。
つまり、10%金利のときには「1万円札」(現ナマ)の価値は定期預金の満期金の110万円からみると、1割がた価値が下がっている。でも金利が1%のときには、満期金の101万円からみれば1%下がっているに過ぎない。つまり、金利が高いときのほうが、お金そのもの(現ナマ)の目減りは激しいと理解すべきなんだね。
ほら、ここまでくると、お金を上手にコントロールする基本がわかる。つまり、高金利=インフレのときには現金の価値はどんどん下がっていくから早く使った方が得だ。
逆に今のような低金利=デフレの時期には、現ナマの価値が上がっていく。だからみんな今、お金を使わないで手元にしまっておくんだね。そしてお金を使わないから景気は悪いままなんだ。そこでお金を使わせるためには、物価を上げればいい、って日銀は考えている。それが「2%インフレ目標」の狙いの1つだったんだ。
しかし、「金利メカニズムの常識」はこれだけ変わった
これでわかった金利メカニズムの新旧常識一覧=昔の常識は今の非常識=
先生「本連載では、金利が景気や株価、物価などとどんな関係にあるかを話してきた。昔からの常識とずいぶん違ってきたことがわかってもらったと思う」
生徒「そうね。学校で習ったこととだいぶ違うし、なんとなく思い込んでいたイメージとも違ったわ」
先生「じゃあここで頭の整理のため復習を兼ねて、新旧常識の違いをいくつかまとめておこうか」
昔の“常識”は今の「非常識」。利下げ効果も薄れてきた
まず、物価が上がっても金利は上がらないって話はしたね。一番のポイントは、物価が上がっても個人は消費を急がなくなった。将来への生活不安が高まってきたから、物価が上がれば消費を抑える。だから借りない。だから金利は上がらない。特にこれは日本に顕著だ。
これは、景気が良くなっても金利は上がらないことにも通じるよ。これが2つ目のポイントだ。景気が多少良くなるとこれまでは、お金が不足していた企業は積極的に銀行からお金を借りた。だから金利が上がった。
今、企業は、随分お金持ちになった。自由に使えるお金がたっぷりあるんだから、もう銀行借入れなどに依存しなくてもいい。だから金利は上がらない。
3つ目はこれと逆だ。金利が下がっても、簡単には景気はよくならない。金利が下がると個人預金の利子が減る。いや、すでにもう金利ゼロの時代が長く続いたからね。
また、さっきも言ったように金融資産を積み上げ、内部蓄積が豊かになってきた企業もお金を借りなくなったので、借入金利の低下による恩恵はあまり受けなくなってきた。
4つ目は、金利が下がれば物価が上がるという関係も怪しくなってきた。将来不安が強いから個人、企業ともに、多少借入金利が低くなっても積極的に消費や設備投資には向かわない。だから物価は上がらないんだね。金利引下げ効果が薄れてきたんだね。
もう1つは経済のデジタル化だ。書籍や音楽あるいはゲームの世界なんかでは、デジタル化が進んだおかげで、同じものをいくら再生産しても生産コストはほとんどゼロだ。またデジタル通販の拡大で、流通・販売コストが下がったため、価格は安く抑えられている。
2021年半ば以降、世界的に物価が上がってきたけれど、これは何も金利が下がったからじゃない。コロナショックから経済が多少立ち直ってきたのに加え、ロシアによるウクライナ侵攻による原油などの価格が上がったことが引き金になったんだ。
最後に、株が上がれば金利も上がるっていう常識も様変わりだ。とくに日本では日銀の強力な金融緩和政策で、巨額のマネーが株と債券市場に流れ込んだから、株も債券もどちらも上がっている。つまり、株高で金利は下がるという時代がもう10年以近く続いてたんだ。
こうしてみると、金利を巡る常識のほとんど半分はひっくり返ってきたと言っていい。
っていうより、時が移るにつれ、経済を支えているいろんな要因が変化していくため、経済メカニズムも変化していくんだといった方が正しいかもしれない。
つまり、ここで話したいくつかの新しい常識も10年後、20年後にはどうなっているか? 想像を超えて変化していると思ったほうがいいかもしれないね。
角川 総一
株式会社 金融データシステム 代表取締役
金融教育・金融評論家
昭和24年、大阪生まれ。証券関係専門誌を経て、昭和60年、株式会社金融データシステムを設立し代表取締役就任。わが国初の投信データベースを開発・運営。マクロ経済から個別金融商品までにわたる幅広い分野をカバーするスペシャリストとして、各種研修、講演、テレビ解説の他、FP等通信教育講座の講師としても活躍。
主要著書に『為替が動くとどうなるか』(明日香出版社)、『金融データに強くなる投資スキルアップ講座』(日本経済新聞社)、『日本経済新聞の歩き方』(ビジネス教育出版社)、『ニュースに出る経済数字の本当の読み方』(WAVE出版)等がある。