金利が上がると、株価はどうなる?
先生「株式に投資している人が一番注意してみているのが米国の金利だ。「株価を見る前に債券の利回りを見る」とまで言う人があるくらいだ。とりわけ10年国債の利回りからは目を離さない。株価は金利の動きからもろに影響されるからだ」
生徒「お金をたくさん借りている企業は、金利が上がると困るから?」
先生「そう。支払う利子が増えるから業績は悪くなるのが基本だ」
「金利上昇⇒株価下落」の原則
企業はどこの国でも、銀行からの借入れとか社債発行でお金を調達している。ということは、金利の上昇には弱いんだね。これが原則だ。
日本だと、期間1年未満の短期借入れが多いんだけど、3ヵ月ごとに金利を見直すっていう約束になっているのが普通だ。こんなとき、金利が上がると、すぐに契約の見直しが行われる。
借入れ金利が上がるのだから、支払利子の額が増える。すると利益は減る。つまり、業績が悪化することが前もって予想できるというわけだね。
こんなとき人は、株式投資からは手を引くよね。つまり売りが増える。だから、株価は下がるのが当然だ。実際、金利が上がり始めると株は売られて安くなる。最近だと、2021年から米国の10年国債の利回りが上がり始めたんだけど、米国の株、そしてそれを受け日本株も急落場面を繰り返した。
もちろん、金利上昇で損をするのは企業だけじゃない。個人だって、特に長期の住宅ローンを借りようとしている人なんかは、ローン金額を抑えたりしてワンサイズ小さな住宅で我慢する。そうすると、不動産・住宅関連企業の業績は振るわない。だから、それを見越して株も売られて安くなる(図表1)。
とくに、日本に比べ米国では金融政策の転換が機動的に行われる。変わり身が速いんだね。だから、株式投資家は特に米国の10年国債の利回りの動きからは目を離せないんだ。
短期の政策金利がこれから動くぞ、っていうときには、それを先取りする格好で、期間の長い債券などの利回りが先に動くからね。なかでも、取引金額が大きな10年国債の利回りが最も敏感にかつ先行的に動く。
理屈から言うともう1つ理由がある。金利が上がると預貯金に預けたり、債券へ投資するのが有利になる。つまり、相対的に株式への投資が不利になるんだ。とすれば、株から預貯金や債券にお金がシフト(移動)するのは当然だね。つまり株が売られ、株価が下がるってわけだ。
ただし、ここで注意しなくちゃならないことがある。それは、金利が上がったのに株も好調に上がることも多いということだ。金利上昇が明らかに景気の回復によるものである場合だ。こんなときには「金利上昇によるマイナスを差し引いてもおつりがくるくらい企業利益が増加する」と期待されるからだ。この点には注意が必要だね。ほら、図表2のグラフでも①、④のときは金利が上がっているけど株価も順調だ。でも②や③、それに⑤のときは金利の上昇が株価の頭を押さえているよね。
ただし、金利上昇の影響をそれほど受けない企業も
先生「金利上昇で株価は下がるのが原則っていったけど、その影響は企業によってずいぶん違うってことも大事だね。金利上昇に弱い企業とそれほどでもない企業がある」
生徒「借入れが多いとか少ないとかってことなの?」
先生「そう。それが大きいね。でもそれ以外にも、注意しておきたいことがいくつかあるんだ」
金利上昇で「下がる株」「上がる株」の差
1つは、借入れが多いかどうかってことだ。これはわかりやすい。業種別でいうと、大手商社、電力、不動産関連の会社は、その規模の割には借金が多い。借入金比率が高いんだね。だから、金利上昇によるマイナスの影響を受けやすい。こんなのを金利敏感株っていう。もちろん、逆に金利が下がるときにはその恩恵を多く受ける。
2つ目には、景気が良くなってきたために金利が上がった場合、むしろ業績が上がることが期待される企業もある。景気敏感株ってよばれる機械、化学、海運なんかがそうだね。
これらの企業は「金利上昇⇒景気がいいんだな⇒だったらこれから業績アップが見込めるな」っていうイメージから買われて高くなることが多い。つまり、金利上昇に伴うコストアップより、景気が良くなることによる利益拡大の方が注目されるんだ。
さらに3つ目。銀行株などは金利上昇で株が上がることがある。これは、預金金利より貸出金利の方が先に上がるからだ。企業向けの貸出金利は機動的に引き上げられるのに対し、1年とか2年定期は満期が来て初めて金利が上がる。だから利ザヤ(貸出金利-受入れ預金金利)、つまり収益が一時的に拡大するんだ。
もう1つは、金利が高い方が預金金利と貸出金利に差をつけやすいっていう事情もある。今のような超低金利のときには、集めた預金に0.002%の利息を払い、たとえば0.6%で貸出すなんてことをあたり前のようにやっている。でも、金利が高いときには5%で預金を集めて6%で貸すことができる。金利が高くなるほど金利差、つまり利ザヤは大きくなるんだ。
逆行することがある「成長株」と「割安株」
まだまだあるよ。4つ目ね。企業を割安株と成長株に分けたとき、成長株の方が金利の上昇には弱いんだ。でもその前に「成長株」と「割安株」の説明が必要だね。
成長株とは、将来に向けて成長し、利益が右肩上がりになると期待されている株だ。だから、株価は現在の収益を基準にすると割高になっている。将来への期待が株価に反映されているんだね。ハイテク、IT、ネット関連企業に多い。日本だとファナック、ソニー、米国だとアップル、アマゾン、マイクロソフトなんかがそうだ。
それに対して割安株は、将来の業績にあまり期待できないから、株価が割安になっている。
金利が上がるときには、成長株は将来増えると期待されている収益が、金利上昇で急速に縮むと予想されるため、株価の下げは大きいんだね。
そこへ行くと、もともと株価が割安な水準にある割安株は、金利上昇というマイナスの影響も小さい。言ってみれば、100メートル10秒台のランナーと時速5キロメートルで歩く人とでは、どちらが向かい風には弱いだろうね? もちろん前者が成長株で、後者が割安株なんだけどね。
角川 総一
株式会社 金融データシステム 代表取締役
金融教育・金融評論家
昭和24年、大阪生まれ。証券関係専門誌を経て、昭和60年、株式会社金融データシステムを設立し代表取締役就任。わが国初の投信データベースを開発・運営。マクロ経済から個別金融商品までにわたる幅広い分野をカバーするスペシャリストとして、各種研修、講演、テレビ解説の他、FP等通信教育講座の講師としても活躍。
主要著書に『為替が動くとどうなるか』(明日香出版社)、『金融データに強くなる投資スキルアップ講座』(日本経済新聞社)、『日本経済新聞の歩き方』(ビジネス教育出版社)、『ニュースに出る経済数字の本当の読み方』(WAVE出版)等がある。