「贈与税の税務調査」の実態
1年間で110万円超の財産をもらった場合、贈与税の申告と納税をする必要があります。国税庁の公表によると、税務調査官が自宅などに訪問して行う贈与税の実地調査に入った件数は年間約3,000件程度です。そして調査に入られた家庭のうち、申告漏れ等に至るのは約95%で追徴税額は平均200万円にのぼります。つまり贈与税の調査に入られた家庭はほとんど追徴課税を受けているということです。
税務調査に「選ばれやすい家庭」とは?
どのような家庭が税務調査に選ばれるのか? 気になるところだと思います。税務調査の話をすると、「大きな金額の贈与はしていないから、税務調査の心配はしていません」と言われる方も多いのですが、その考えはとても危険です。
上記の税務調査に入られた約3,000件の家庭のうち、約7割が国税庁区分でいう「低階級・500万円未満の贈与」にあたります。つまり比較的低額の贈与に関しても、税務署は目を光らせていることがわかります。
税務署は独自の資料をもとに、贈与税の無申告事案を追っています。私の経験上、贈与税の税務調査に選ばれやすいのは、次の3つのパターンに当てはまるご家庭です。
<①相続が発生したご家庭>
親から子への贈与は死亡する直前に行われるケースがとても多いです。これは、あまりに早い段階から贈与をすると親の生活費不足が懸念されることや相続税対策が高齢になってから行われることが影響しています。そのため、数年内に相続が起きた家庭について、その直前に贈与が行われていないか?と税務署は考え、銀行等に調査を行い預貯金の移動がないかを調べます。その結果、贈与の申告漏れの疑いが強い場合には、贈与税の税務調査を行うのです。
また、相続税の税務調査の過程で贈与税の申告漏れが発覚するケースも非常に多いです。相続税の調査は、亡くなった方の財産を調べるだけではありません。相続人の財産も合わせて調べるのが一般的です。亡くなった方の財産が相続人に流れていた場合、税務調査官はそれが相続なのか贈与によるものなのかを確認します。そこから贈与税の申告漏れを指摘されるというケースはとても多いのです。
<②不動産の名義変更をしたご家庭>
不動産の購入や贈与があった場合、必ず法務局に登記が必要となります。ですので、税務署はその登記情報を調べれば、誰が誰からどのようにして不動産を取得したかを簡単に確認することが可能です。また、法定調書という提出書類の一つに不動産売買の仲介手数料があり、その書類からも税務署は不動産の取得状況を把握しています。
税務署はこれらの情報をもとに対象者をピックアップして、「お買いになった資産の価額などについてのお尋ね」という文書を送ります。これが一般的に「お尋ね」と呼ばれるもので、税務署から送られるアンケートのようなものに回答を記入し、税務署に返送する仕組みとなっています。
お尋ねの回答項目には、職業や年収、購入金額、その購入資金の調達先などがあります。送られてきても回答するかしないかはあくまで任意ですが、しない場合は税務署に不審に思われてしまう可能性が高くなります。税務署はこれらの情報を参考として、贈与税の申告が必要なのか、必要であれば適切に申告が行われているのかを確認しています。そして、贈与税の申告漏れが疑われる場合には、税務調査を行うという流れになっています。
なお、不動産の購入資金を祖父母や両親から援助してもらった場合には、その金額は贈与税の申告対象です。また、贈与税の住宅非課税の特例制度は、確定申告をしないと適用することはできませんので注意が必要です。
<③高額な投資や車などを購入したご家庭>
税務署では納税者の税金情報を一括管理するシステムを導入しています。そのシステムで個人個人の収入やおおまかな財産などを把握しています。そのため、収入や保有財産にそぐわない高額な投資や買い物をした場合は「その元手はどこからきたのか?」と疑問をもち、調べることになります。そしてその調査の結果、贈与税の疑いありとなれば税務調査を行うという流れになります。
「贈与税の無申告」はバレて当然
税務署の調査能力はとても高く、決して侮ってはいけません。上記にあげたケース以外にも、たとえば、税務署は法定調書から生命保険金の受取りや国外への送受金などの情報を入手しています。常に、贈与の手掛かりとなる情報を収集し申告内容と照合し、「贈与税が漏れているのでは?」という仮定が立てば税務調査を行っています。自分の贈与は「多分バレないだろう!」と無申告のまま放置するのではなく、期限までにしっかり贈与税申告をすることが大切です。
また、期限が過ぎている贈与税申告もしっかり申告することでペナルティを避けられるケースは多いですので、不安になったら税理士等の専門家に相談するものおすすめです。
黒田 悠介
税理士法人Bridge 代表
税理士・政治資金監査人
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