タンス預金とは?なぜするのか
タンス預金とは、その名の通りタンス(箪笥)や金庫、その他の場所など、金融機関に預けていない手元にある現金を指します。日本銀行の「資金循環統計」によると、タンス預金の金額はなんと約107兆にも上ることが発表されています。
タンス預金をしておくこと自体は悪いことではありません。相続により口座凍結がされた際の、故人の葬儀代等の急な出費用として備えておく場合もあるでしょう。また、預け入れ金融機関が破綻した場合に資産を守れるなどのメリットもあります。
問題は「タンス預金があるかどうか税務署にはわからないだろう」とタカをくくって、タンス預金を隠し、脱税をすることです。現金だからバレないのでは?とたまに相談をいただきますが、税務調査官はそんなに甘くはありません。
税務調査官はタンス預金をこう見抜く
では、調査官はどうやってタンス預金を見抜くのでしょうか?
■KSK(国税総合管理)システムの活用
KSKシステムとは、国税庁や税務署が保有する、納税者の申告情報を統合管理しているシステムのことです。2000年から運用されているこのシステムには所得税・相続税等に関する納税情報がまとめられているため、納税者ひとりひとりの稼ぎや財産がおおよそ把握されています。このKSKシステムを使ってタンス預金がバレるケースがままあります。たとえばKSKシステムで5億の財産を持っていると推計された人が、相続税申告では3億しか財産を計上しなかった場合、この差額について「どこかに隠しているのでは?」と疑いの目を向けるわけです。
■過去10年分の預貯金を調査
税務調査官は納税者の承諾がなくても預貯金口座を調査することができます。また、納税者以外の口座も調査でき、過去10年にわたって、高額なお金の出どころ・行き先を徹底的に調査します。たとえば相続が起こる前、数年の間に1,000万円の行き先が不明な出金があった場合、まず税務調査官はまっさきにタンス預金の存在を疑います。このように高額な出金があれば、引き出したお金をタンス預金として隠している可能性が高い!と税務調査官は考えるのです。おおむね、その目安とされているのは100万円以上の出金額がある場合です。もちろん子・孫の学費や葬儀代等のしっかり説明がつく出金であれば問題ありませんが、合理的な理由のない出金はタンス預金の可能性あり!と税務調査官から追求されます。
■様々な法定調書からタンス預金を捕捉
不動産会社や保険会社、証券会社などは、特定の取引について法定調書を作成し、税務署へ法定調書を報告するよう義務付けられています。その様々な法定調書と銀行取引情報などを組み合わせた場合、不明な資金の減少があぶり出されることがあります。このようにして税務調査官はタンス預金の存在を発見するのです。
■税務調査でタンス預金の現物を捕捉
タンス預金など現金について申告漏れの疑いがある場合に、税務調査官による税務調査が行なわれます。税務調査官の質問では、一見すると相続とは無関係な内容も多く、和やかなムードで調査は進みますが、調査官はその雑談の中からタンス預金の情報をあぶり出しているのです。実地調査においては、聴き取りのほかにも、相続人や被相続人の通帳や印鑑の確認、家具の中などが調査されます。その場で隠し金庫が発見され現金が見つかったケースもありますし、公表されているケースでは、神棚や衣装ケース、座布団の間、なかにはガレージのタイヤといった様々な場所から隠された現金が発見されています。
その他、タンス預金をすることのデメリット
●盗難や災害、未発見で紛失するリスク
タンス預金をしていると盗難や災害で紛失をするリスクがあります。盗難においては空き巣だけでなく身内で起きるケースもままあるため、要らぬトラブルを招く原因になります。また、そのタンス預金を後継者に伝えぬまま認知症や相続が発生した場合、そのまま未発見で紛失になってしまうというリスクもあります。
●相続人間の争いにつながる
タンス預金の残高はそれを明確に証明する証拠がないため、遺産分割時にトラブルになることがあります。タンス預金は被相続人の財産なので当然、遺産分割の対象となります。たとえば申告書に財産計上せずに、タンス預金を独り占めしたとして、その事実を別の相続人に見つかった場合、争いになることは想像に難くありません。
●もちろん税金のペナルティも
タンス預金を申告しなかった場合、脱税したとみなされて追徴課税だけでなく、有罪判決が下される可能性もあります。有罪判決が下されると、懲役や罰金などの刑が科せられます。タンス預金はバレないから計上しなくてよいのかといえば、明確にNOです。
まとめ:「脱税目的のタンス預金」は基本的にバレる
タンス預金は実行しやすい脱税方法になるため、税務調査官は常に目を光らせています。
国税庁が公表している統計データによれば、税務調査時の財産計上漏れのうち、約33%が現金・預貯金となっています。すべてがタンス預金によるものとはいえませんが、古典的な手法なので調査官側にも発見するための様々なノウハウがたまっており、高確率で発見されているのが現実です。
バレないという考えは正直甘いと言わざるをえません。重いペナルティやリスクも考えると、タンス預金はしっかりと申告をすることを前提に、脱税にはならない「節税」をコンサルティングの得意な税理士等と実行することがおすすめです。
黒田 悠介
税理士法人Bridge 代表
税理士・政治資金監査人
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