「8時間労働制」実現に向けて…
アメリカでは1866年に最初の全国的な労働組合の連合体であるナショナル・レイバー・ユニオンが結成されたのを皮切りに、労働騎士団(1869年創設)やアメリカ合衆国・カナダ職能・労働組合連盟(1881年創設)など全国規模の団体が設立されました。
1886年にはアメリカ労働総同盟(AFL)が発足。AFLはその後、団体間の競合に勝って最大の労働組合組織になります。そして、AFLを率いたのがサミュエル・ゴンパーズという人物です。
ナショナル・レイバー・ユニオンの運動もあり、アメリカでは8時間労働制が導入され、1869年には連邦公務員にも8時間労働が適用されました。しかし、民間企業では労使協約によって導入されなければならず、経営者と労働組合の対立は長く続きました。
ゴンパーズは、8時間労働制の実現のため全米各地を飛び回って遊説しました。国際的な連帯も行い、1889年、フランス革命100周年を記念してパリで行われた第二インターナショナルの創立大会に際して、ゴンパーズはAFLの代表団を派遣しました。
このパリ大会では、アメリカの労働闘争にならい、翌1890年5月1日を「8時間労働制の実現および労働者階級の諸要求を実現するための国際的統一行動の日」とすることが決定されました。これが「メーデー」の始まりです。
「労働者が求めているものは何か」
この第1回メーデーでゴンパーズは、「労働者が求めているものは何か」という演説を行っています。
“労働時間が長いところでは人間は安いのです。人間が安いところでは発明の必要はないのです。人が自分の職業で10時間とか12時間、さらには14時間働いて、それから機械の発明とか新しい原理や動力の発見に時間をかけることなど期待できるでしょうか。(中略)一日10時間働く人間が労働時間を9時間に短縮されたならば、あるいは一日9時間働く者が8時間に短縮されたならば、それは何を意味するでしょうか。
それは思考のための何百万という黄金の時間と機会が出来ることを意味します。(中略)短時間労働制度の下では労働者に自分たち自身を改善する機会が出てくるだけではありません。雇い主の方にももっと大きな繁栄がもたらされることになるのです。”(野村達郎『史料で読むアメリカ文化史3』より)
社会の発展と繁栄のためには労働時間の短縮が必須であり、それは経営者にも利益をもたらすことになる、というのです。
ゴンパーズの考えはシンプルです。彼は、賃上げや労働時間短縮といった労働条件の改善によって資本家階級からより多くの利益をぶんどることを目指しました。社会が発展し、企業が儲かれば、そのぶん労働者の利益も多くなる。ゴンパーズは、資本主義の枠内で労働者の条件を改善しようとしたのです。この発想は、最終的に国家や資本家を廃絶し労働者のための世界を作ろうとしたマルクスら共産主義者とは全く異なります。
ゴンパーズによるアメリカ流の労働運動は「ビジネス・ユニオニズム」と呼ばれます。現在の日本人にとっても、比較的納得しやすい考え方ではないでしょうか。