社長の平均年収「約1700万円」だが…社長報酬は「高い」ほうが倒産しにくいワケ【元銀行員が解説】

社長の平均年収「約1700万円」だが…社長報酬は「高い」ほうが倒産しにくいワケ【元銀行員が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

銀行がその会社に融資するかどうかの判断基準は、会社の経営者や役員が考える基準とは大きく異なります。その例として、菊地宏氏の著書『会社の総資産額は少ないほうがいい』(時事通信社)より、「社長報酬は高いほうがいい」を見ていきましょう。かつて銀行員として約1,000社に及ぶ会社の融資に携わってきた筆者が、銀行員目線で解説します。

社長の平均年収「約1700万円」は“もらいすぎ”?

中小企業の経営者は、平均どれくらいの年収だと思いますか? 日本実業出版社『役員報酬・賞与・退職金 中小企業の支給相場』によると、2020年に全国の中小企業を対象に行ったアンケートで、平均年収は約1700万円でした。私が担当した会社も、平均すると同じくらいの金額が経営者の年収だったと記憶しています。

 

しかし、中には経営者の年収が3千万円を超えていたり、奥さんも役員を務めていて夫婦でかなり高額な報酬を手にしていたりするケースがありました。

 

こうした場合、社員たちの顰蹙を買っていることがよくありましたが、だからと言って融資の判断を行う銀行員が批判的に見ているかというと、決してそんなことはありません。

 

そもそも、経営者含め役員報酬の金額は、株式総会の決議で決めなければなりませんが、経営者が自社株式の過半数を持っていれば、実質的には自分の裁量で自由に決めることができます。もし経営者が自社の株式を100%持っていれば、第三者に経理帳簿を開示する義務がないですから、いくらでも高く設定することが可能です。世の中の印象からすると、中小企業の経営者はもらいすぎではないのかと驚いた方もいるのではないでしょうか。

 

中小企業の経営者は報酬が高すぎるかと言うと、そんなことはありません。なぜなら、中小企業の経営者は、サラリーマンとして入社して抜擢された場合や、外部から招聘された上場企業の経営者と異なり、自分の人生のすべてを賭けて創業から成長させてきた人物が多いです。

 

また中小企業の経営者は、これからどうなるとも全く見えない状況で、創業の時に自分のなけなしの資金を会社の株式に投じ、相当な高いリスクを取っています。経営者がその大きなリスクを取ったからこそ、社員はいま、給与をもらうことができ、家族を養っているのです。

 

さらに、上場企業は銀行借入をしていても、経営者は基本的に連帯保証人になることはありません。上場企業の社長は会社を倒産させても首になるだけですが、中小企業の経営者は倒産すると個人資産の全てを失ってしまうこともあります。

 

会社における経営者個人の不可欠の度合いと責任の重さを考えたら、上場企業の経営者の比ではありません。

銀行が「社長報酬が高い会社」を評価する理由

銀行員からすれば、極端に多額でない限り、経営者の報酬は高いほうが評価されます。その理由としては、以下の二つがあります。

 

■理由①もし会社が返済できなくても、経営者が肩代わりできるから

一つは、中小企業に対する銀行の審査では、会社と経営者個人を一体として考え、信用力を調査し、判断を行うためです。中小企業が銀行から融資を受ける時、経営者が連帯保証人となるのが大原則となっています。連帯保証人になると、会社が借入金を返済できなくなったら、代わりに経営者が債務者となり、自分の預金や資産から支払わなくてはなりません。

 

つまり、融資を受けた会社と同じ義務を負うわけです。返済を延滞し続けて、未払いのままでいると、最終的には銀行が裁判所に仮押さえを申し立て、経営者個人の預金引き出しをロックさせることもあります。それでも返済できないなら、最終的には自己破産になるかもしれません。

 

銀行は、経営者は高い報酬で十分な個人資産を保有しているほうが、万が一、会社が返済できなくなった時も、経営者が肩代わりして支払う能力があると考えます。そう説明すると、銀行は経営者の個人資産をあてにしているのではないかと感じるかもしれませんが、それよりも経営者が気概を持って経営にあたり、会社の全責任を負う不退転の決意表明への評価としての意味合いが強いです。もし経営者が連帯保証人になることを拒否すると、事業が失敗することを恐れているのではないかとみなされて、銀行から信用されず、その時点で融資の話はなくなってしまうでしょう。

 

私は銀行の京都支店にいた時、経営者の個人資産という点で、この地域独特の特徴を感じたことがありました。なにしろ京都で代々続く老舗の中小企業は、会社の決算書を見せてもらうと何十年もほとんど利益を出しておらず、会社の純資産もなく、いつ倒産するかという惨たんたる状態なのに、経営者の個人資産が潤沢にあり、その信用力を背景に融資を繋いでいるケースが数多くあったのです。

 

なぜなら京都の中小企業経営者は先祖代々の土地をたくさん所有していることが多く、人気観光地のために地価はほとんど下がりません。神社仏閣が多いため、京都市中心部では借景を考慮した条例により15階以上の建物は作れないなど、さまざまな制約があって土地が限られている上、繁華街が密集しているからです。

 

この土地を経営者個人が所有し、ホテルや伝統ある料理屋さんに貸したりなどしているので、資産価値はほとんど下がらないというわけです。京都支店にいる間、実際にこのタイプの融資を何件か行いましたが、会社の信用が足りない分を、経営者個人の資産で補完して融資した案件は、他の地域よりもかなり多かったと記憶しています。

 

■理由②社長報酬は経営状況に合わせて増減できるから

そしてもう一つ、経営者の報酬が高いことを評価するのには理由があります。前述したとおり、経営者自身の報酬は自分でコントロールできますから、業績が悪くなったら少なくすることも可能です。会社が赤字になると、真っ先にコスト削減のため、無報酬にすることもできます。会社の業績が悪くなると、報酬をもらっている場合ではありません。要するに、経営者の報酬は会社が儲かれば高くし、そうでない時は下げてコストを減らし、便利に調整できるものなのです。

 

バブルの時代は担保至上主義と言われて、土地などを担保に融資を行っていました。本来、銀行は会社を継続し成長させる役割を担っているのに、担保がないと貸さないのはいけないと批判を浴び、以後は担保ではなく、会社の財務状況を適切に評価して融資を行うという姿勢になっていきました。

 

その流れが今も続いていますが、担保を差し入れてもらうことが一般的な融資もあります。長期にわたって融資を行う、工場や倉庫などの設備資金の場合です。例えば、工場建設資金の融資を行う場合、工場を建てて、製品を生産して、その製品が生む利益を返済の元手と考えるために、最終的に全額を返済してもらうまでに5年~10年の長い年月を要します。

 

長い間貸すとなるとリスクが大きくなるので、銀行は設備資金を融資する時はその物件を担保に取ることが多いです。

 

しかし、会社の運転資金などは、会社の信用と経営者の連帯保証だけで行うことがほとんどですから、その時に向けて経営者の個人資産を増やしておけば、銀行から融資してもらえる可能性が高まります。会社が儲けている時に高い報酬をもらって、経営者の個人資産をしっかり蓄積しておくことが賢明です。

 

なお、経営者が高い報酬をいいことに銀座の高級クラブで散財ばかりして、十分な個人資産を蓄積していなければ、銀行にとって何の評価にもなりません。

 

 

菊地 宏

インフォニック株式会社 代表取締役社長

 

1964年、宮城県石巻市生まれ。同志社大学法学部卒後、現みずほ銀行に入行。大阪支店(外国為替部)を皮切りに、麹町支店等、15年半勤務。退社後、2005年インフォニック株式会社を創立、代表取締役に就任。現在グループ5社、計6拠点(京都、東京、大阪、福島、舞鶴、ミャンマー)でソフトウェア開発及びIT基盤構築業務を行っている。

 

※本連載は、菊地宏氏の著書『会社の総資産額は少ないほうがいい』(時事通信社)より一部を抜粋し、再編集したものです。

会社の総資産額は少ないほうがいい 銀行から融資を受けたかったら、この数字を見直しなさい

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菊地 宏

時事通信社

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