「自給率引き上げ」と「自助拡大」も課題
2本目の矢は、穀物やエネルギー、半導体など、必需品の自給率引き上げです。
半導体については、先日、次世代半導体の国産化を目指す、日本の大手企業8社が参加する新会社が設立されました。とてもいいニュースです。
農業については、国内企業による農業参入を完全に自由化し、穀物生産は欧州並みに補助金を提供すべきでしょう。
日本が穀物の生産を増やせば、農業大国との貿易摩擦が高まるでしょう。
しかし、日本のような人口大国が、低い穀物自給率を維持して、他国に依存している状況は、平和で経済重視の世界では許されるかもしれませんが、気候変動や地政学などの「混とん」とした時代においては、他国、特に食糧難の新興国から見れば無責任に映るでしょう。
もちろん、世界的な干ばつや地域有事によるシーレーン封鎖など、いざというときに融通が受けられるかどうかも定かではありません。
貿易摩擦によって輸入が超過する分は、途上国に提供するなどの支援体制が途上国の「囲い込み」にも効果的であるはずですし、なにより、そうした支援は先進国としての義務とも考えられます。
また、原子力発電も、高温ガス炉や小型モジュール炉などの次世代革新炉を前向きに検討すべきでしょう。そのときには、核燃料サイクルについての議論が必要になりますし、経済性も問題になりますから補助金で支援する必要もあります。
そして、3本目の矢は自助の拡大です。自分たちの生命と財産を守るためには、各人の人的資本と経済の成長が必要です。
たとえば、有給でのリスキリングが挙げられるかもしれません。インセンティブを引き出す最適な制度設計は、経済学の新分野であるマーケットデザインの専門家に知恵を借りることを検討すべきでしょう。日本にはマーケットデザインの有力な研究者が大勢います。
平和があってこそ、個人と自由を極められるいまの生活を送ることができる
筆者は日頃、電車に乗るにつれ、本屋で新刊を眺めるにつれ、日本にいる人たちが、個人と自由を極める生活を楽しんでいるところを目の当たりにします。
われわれが「個人と自由を極められる」のは、国という囲いがあるからこそでしょう。言い換えれば、日本が平和であるということです。その平和は、「国民として一丸となる」ことで勝ち取ることができるものでしょう。言い換えれば、平和を実現するには、個人と自由がいくぶん制約されるはずです。
個人と自由を守るべく、共に努力をするとき、我々は自分たち自身と日本の企業に対する自信を取り戻すように思えます。
なお、本欄での主張は筆者個人のものであり、所属組織の考えではないことを書き添えておきます。
[参考文献]
・河野克俊、兼原信克著『国難に立ち向かう新国防論』(ビジネス社)
・岩田清文、武智智久、尾上定正、兼原信克著『自衛隊最高幹部が語る令和の国防』(新潮新書)
・岩田清文、武智智久、尾上定正、兼原信克著『自衛隊最高幹部が語る台湾有事』(新潮新書)
重見 吉徳
フィデリティ投信株式会社
マクロストラテジスト
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