根拠が乏しい「新築至上主義」に終止符を
このような意識を一変させようと、不動産エージェントは、アメリカの事例を視察し独自に研究し、日本に適合したインスペクションの形式を確立していきました。具体的にどのようなローカライズを施したかというと、アメリカが建物の設備を重視するのに対し、日本のインスペクションでは構造をより重点的に評価するようにしています。
たとえば、建物の現状が少し傾いていたとして、その原因は何なのかをとことん追求します。地盤が傾いているのが原因であったとしたら、現状の地盤は盤石となっているのか、それとも今後も地盤の影響で建物は傾いていくのかなど、未来の建物の構造についても予測を立てつつ評価するのをインスペクションの要としています。
現状維持で大丈夫なところ、将来的に直していく必要があるところ、あるいは今すぐ直す必要のあるところを細かく分類し、建物の本質的な価値へと転換していきます。
使い込まれた中古住宅ですから、このようなインスペクションを実施すると、多かれ少なかれ建物の弱点は見つかるものです。弱点があるならやっぱり新築がいいという買い手の意見もあるし、弱点が見つかるくらいならインスペクションをせずに売り出したいという売り手の意向もあります。
しかし、インスペクションを通して見つかる建物の弱点部分は、改善の価値があるところばかりです。その弱点部分さえ直してしまえば、建物の寿命をより延ばすことができ、建物の現存価値を引き上げることができると考えることができます。
住宅の歴史を紐解けば、戦後の高度成長期に建てられた建物は確かに粗製濫造の感がありました。しかしその時期を過ぎた、今からおよそ40年前以降は、建築基準法がより厳格化され、工事の品質も上がっているなかで建てられた建物なので、現代のレベルとさほど遜色のないレベルにまで達しています。
それでもよく巷では、日本の木造住宅は30年、という話も耳にします。しかし、これは取り壊した木造住宅の平均寿命を算出しているに過ぎません。
今もなお建ち続けている木造住宅はカウントされていないのです。早稲田大学理工学術院の小松幸夫教授らが行った「建物の平均寿命推計」の調査(2011年)では、建っているものと解体されたものすべての建物の築年数から平均寿命を出したところ、木造住宅で64年という数字が出されました。
30年ほどで解体される木造住宅がある一方で、60年どころか90年も住まいとして十分な価値を保ち続ける木造住宅があることを意味しています。
これは木造だけでなくほかの建物構造でも同じです。築40年ほどの建物であれば、平気で100年保つような可能性もあると私は感じています。