サブリースのしがらみを解く
エージェントCの予想外の提案に、後藤さんの顔がみるみる紅潮していきました。すでに何ヵ月も赤字を重ねている不動産です。今後も売らずにもっていれば、管理費や修繕積立金は高くなる一方ですし、資産価値も下がっていきます。
だからこそ他の不動産仲介会社は早く売るべきと口をそろえて提案していたわけです。にもかかわらず、Cは売らずにもっているべきと主張するのですから、後藤さんが怒るのも無理のない話でした。
Cの意図は、売却価格を安くしてしまっている障壁を一つひとつ崩していくことで不動産の魅力を引き上げるプランを提案したいというものでした。そのプランを成し遂げるには少し時間を要するため、今は売らずにいようということです。
売らずに待てば本当に1,900万円よりも高くなるのかという後藤さんの念押しに対し、深くうなずいたCは詳しい説明を始めました。
第1ステップがサブリース契約の解除です。サブリース会社が入居者から家賃を受け取り、手数料が抜かれて後藤さんにお金が入ります。この流れを打ち切り、後藤さんと入居者の間で直接の賃貸借契約を結べば、手数料がなくなるため家賃収入額を底上げすることができると説明しました。
後藤さんは一定の理解を示しましたが、簡単にサブリース契約を解除することなどできるのかと疑問を口にしました。確かにそこがネックです。サブリース会社との契約に規定が明記されている場合であれば、解除できる可能性はあります。ただし、明記されていてもサブリース会社によっては強硬に解除に応じないケースも多いのが実状です。過去には法廷闘争にまで発展した挙句、結局解約には至れなかった判例もありました。
しかしCが詳細に調査したところ、後藤さんが契約したサブリース会社では解約の前例がいくつかあり、契約内容と照らし合わせても解約できる可能性が十分に考えられたのです。
後藤さんの場合、半年後にサブリース会社との契約が更新される契約内容となっていたため、このタイミングで契約打ち切りとできるようサブリース会社に解約を打診しようと持ちかけました。
後藤さんとしては一刻も早くワンルームを手放して楽になりたい一心でしたから、Cからの提案には当初、半信半疑の反応でした。しかしCの論理だった丁寧な説明が終わる頃には動揺はすっかり消え、決意の表情へと変わりプランに納得してくれたのです。
Cからのアドバイスを参考に、後藤さんはさっそくサブリース会社との解約交渉に乗り出しました。交渉は難航することなくスムーズに進み、こちらの狙いどおり半年後に解約できることが決まったのです。解約手続きの過程で判明したのはサブリース会社の手数料です。Cの予想どおり、1万円の手数料を取っていました。
これにより家賃収入9万円想定で売り出すことができ、不動産の価値が上がるため後藤さんは大喜びです。この段階でもう一度査定を行ったところ、2,160万円という価格が算出できました。
まだローン残債を返しきれるほどではない価格だったことを受けて、喜びも束の間、落胆する後藤さんに向けて、Cはこれから売却価格を上げるための第2ステップに入ると告げたのです。