レーガン大統領だからこそ乗り切れた?
■スタグフレーションを脱却する唯一の方法
では、スタグフレーションに陥ると、何も打つ手がないのかというと、そうではありません。1つだけ残されています。
それは、何らかの形で総供給曲線を元の位置に戻す方法です。
今回のように原油価格や食糧価格の高騰が原因である場合、日本国内の都合でこうしたコストを変えることはできません。しかし企業の体質を転換し、コストが高い状態でも以前と同じ生産を実現できるようにすれば、全体の供給力を回復できます。つまり企業の生産性を一気に高めることができれば、従来と同レベルの生産を実現でき、総供給曲線も右に動いていきます。これによって、価格の下落とGDPの増大を同時に達成することが可能となるのです。
1970年代に深刻なスタグフレーションに陥った米国は、インフレ抑制を優先し、政策金利を20%に引き上げるという荒療治を行ってインフレを何とか沈静化させました。その後、規制緩和や競争環境の構築といった、いわゆる構造改革を実施して企業のイノベーションを活性化させ、高いコストでも従来以上の生産を実現できる体制を構築。再び経済を成長軌道に乗せることに成功しました。この一連の政策こそ、ロナルド・レーガン政権によるレーガノミクスです。
しかし、これらの施策を実施することは並大抵ではありません。実際、金利引き上げによって米国経済はマイナス成長となり、企業は大打撃を受けました。その影響が残るなかで苛烈な構造改革を実施しましたから、失業率は急上昇し、多くの人が転職を余儀なくされました。米国におけるその後の高成長は、こうした犠牲の上に成り立っているのです。
この痛みをともなう政策は、国民から絶大な支持を得ていたレーガン大統領だからこそ実現できたという側面が否定できません。しかし、このようなカリスマ的リーダーはそうはいないのが現実です。苛烈な政策によらず、政府による補助金などで構造改革を推進する方法もありますが、その場合には、十分な財政基盤と時間が必要であり、長期間の取り組みが不可避です。
いずれにせよ、ひとたびスタグフレーションに陥った場合、そこからの脱却はきわめて困難であり、何としても、そうした状態に陥らないようにすることが、政策の最優先課題と言えます。
加谷 珪一
経済評論家