相続人のひとりである兄が行方不明
※以降の事例の人名はすべて仮名です。
20年程前に亡くなった父親の名義になっている不動産を売却しようとした依頼者・高橋健一さんの事例を紹介します。不動産屋に行って、売ろうとしたときにいろいろと問題があり、想像以上に時間や費用を費やすことになった話です。
高橋健一さん曰く、「20年程前に父親が亡くなったときは、四人の相続人全員で話し合いをして、自分(健一)が承継することで、全員の承諾を得ることができていた」とのことです。なるほど、そのときに登記手続きをしていたら何の問題もなかったのでしょうし、僕の事務所をお訪ねになることもなかったかもしれません。「登記をしないといけない」とお気づきになられたことはよかったと思うのですが……。
しかし、月日が経ち、四人の相続人それぞれの人生が大きく変化するなかで、健一さんの兄・豊さんが数年前から行方がわからなくなってしまったのです。年に一度くらい、豊さんの姿を見かけたという情報はあるそうですが、健一さんが実際に豊さんを見ることはなく、連絡手段もない。いざ、相続登記の手続きをするにもまったく進めることができなくなり、当事務所にお見えになりました。
まず、健一さんに登記の所有権を移転する場合は、遺産分割協議が必要です。しかし、この状況では豊さんを交えた遺産分割協議が進められるわけもなく、通常の相続登記以上に手続きはややこしくなる。まずは、裁判所で不在者財産管理人という豊さんの財産を代わりに管理する役目をもつ人を選任します。その管理人を含めた相続人全員で、遺産分割協議をして解決しました。
結局、所有者(父親)が亡くなった当時に相続人の間で決めた「健一さんがすべての財産を承継する」ことはできませんでした。なぜなら、豊さんの代理人となる不在者財産管理人は、豊さんの法律上認められた権利を満たすことを目的として、遺産分割協議に参加(権限外行為の許可を得て)します。
つまり財産を相続人の間で分け合うこと、豊さんの法定相続分の取得を主張する立場でないといけないのです。結果は、健一さんから豊さんに法定相続分のお金を支払うということになりました。
健一さんに相続が決まった段階で、すぐ法的な手続きをしていれば、状況はかわっていたでしょう。病気について、早期発見・早期治療という標語がありますが、登記手続きも同様に鉄は熱いうちに打ちたい。話し合いができた段階で、登記手続きもあわせて進めるべきだと思います。すぐ手続きをしておけばスムーズに進められたことが、時間が経過してしまったことで相続人の事情が変わってしまい、手続きがむずかしくなるケースが散見されます。
そして、「不在者財産管理人」の存在のデメリットは紹介したとおりです。健一さんの気持ちを考えると、納得いかないこともあるでしょう。そして豊さんの権利を確保するための時間や費用を支払うことにも、きっとストレスを感じることでしょう。なので、相続登記はできるだけ早いうちにすましておくことが肝要となります。また、すでに推定相続人に行方不明者がいるといった場合には、被相続人が遺言書を書き記しておくなどの事前の対策が必要になります。
上村 拓郎
優司法書士法人 代表社員
2025年2月8日(土)開催!1日限りのリアルイベント
「THE GOLD ONLINE フェス 2025 @東京国際フォーラム」
来場登録受付中>>
【関連記事】
■税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】
■月22万円もらえるはずが…65歳・元会社員夫婦「年金ルール」知らず、想定外の年金減額「何かの間違いでは?」
■「もはや無法地帯」2億円・港区の超高級タワマンで起きている異変…世帯年収2000万円の男性が〈豊洲タワマンからの転居〉を大後悔するワケ
■「NISAで1,300万円消えた…。」銀行員のアドバイスで、退職金運用を始めた“年金25万円の60代夫婦”…年金に上乗せでゆとりの老後のはずが、一転、破産危機【FPが解説】
■「銀行員の助言どおり、祖母から年100万円ずつ生前贈与を受けました」→税務調査官「これは贈与になりません」…否認されないための4つのポイント【税理士が解説】