(※写真はイメージです/PIXTA)

莫大な資産を保有する日本の富裕層は、近年大きく変わった……海外移住のサポートを行い、これまで2万人を超える富裕層をみてきた大森健史氏は、そう実感しているといいます。いまどきの“シン富裕層”の実態とは? 今回は、昨今の日本の富裕層を5つのタイプに分けてみていきます。

現代のお金持ちは「リッチ感」ゼロ

40歳前後のその男性は、パーカーにスウェットパンツ、白のスニーカーというラフな服装で現れた。小さなクラッチバッグをひとつ持ち、「こんちは」と軽くあいさつをする。

 

「マレーシアがいいって聞いたんで、移住しようかと思うんですよね」

 

人生の大きな転機ともなりそうな「海外移住」を、数日間の小旅行にでも行くような気軽な口調で話題にする。

 

「マレーシアは、最近ビザの条件が改悪されたんですよ」

 

必要な資産額も3倍ほどになったこと、年間90日の居住義務もできたことなどを私から丁寧に説明すると、「へぇ、じゃあ、どこの国がいいんですか?」と質問をしてくる。

 

「そうですね、今はドバイが人気です。『全世界所得課税』ではなく、そもそも現時点では所得税も法人税もありません。日本の国内源泉所得に対する日本の課税以外、ドバイでの収入に対しては当然ゼロですし、贈与税も相続税もないんですよ」

 

「それは税金面でいいですね。でも中東って、なんか治安悪そうなイメージなんですけ
どねぇ」

 

「いえいえ、治安も良く、お子様が英語教育をしっかりと受けられるような学校も充実
していて、物価も東京と同じくらいなんですよ」

 

現地の写真などを見せて説明すると、

 

「なるほどねぇ。僕、ネットで情報商材を販売している仕事なんですけど、ドバイってネット環境とかはどうなんですか?」

 

「もちろん、日本とそれほど変わらず、充実していますよ、ネットの投資家も多いです
から」

 

そう答えると、彼は一瞬の間を置いただけで、にこりと“即決”した。

 

「じゃ、妻と2人の子どもたちと、家族でドバイに移住します」

 

その場で移住手続きに関する具体的な説明が、さっそく始まった……。

 

驚くかもしれませんが、これが「シン富裕層」と呼ばれる人たちの、海外移住相談の一幕です。

 

高級車、高級時計、オーダーメイドのスーツ……少し前なら一点豪華主義であっても見分けがつくようなわかりやすい記号を持っていたかもしれません。しかし「シン富裕層」はたとえがいいかどうかはわかりませんが、エリートビジネスマンどころかそのへんにいる学生のようでもあり、街中ですれ違ったとしても「リッチ感」のオーラはゼロと言っていいでしょう。

 

後ほど詳しく述べますが、見た目と同様に暮らしぶりが派手なタイプもあまり多くありませんので、はっきり申し上げて、昔ながらの「金持ち」イメージではまったく見分けられない、というのが「シン富裕層」の共通点ともいえます。

 

数億から数十億円の資産を持つ大金持ちとは思えない、ラフな格好と口調で、ふわっとした相談をして、人生において重要な判断だと思われる海外移住先をすぐに決め、実際に移住していくのです。

 

このような「シン富裕層」の人々の収入源、考え方、行動様式について、以下では詳しくひも解いていきます。

 

これまでの富裕層のイメージをがらりと変える、「シン富裕層」の実態をのぞき見てみましょう。

 

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次ページこれまでの定義に当てはまらない「シン富裕層」

※本連載は大森健史氏の著書『日本のシン富裕層』(朝日新書)より一部を抜粋・再編集したものです。

日本のシン富裕層 なぜ彼らは一代で巨万の富を築けたのか

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