(※写真はイメージです/PIXTA)

公益財団法人日本サッカー協会退職後、JFA国際部コンサルタントとしてサッカー業界に関わり続けている松永隆氏の著書『ビジネスパーソンのための超実践的交渉術 ⽇本⼈の交渉のやり⽅』より一部を抜粋・再編集し、実例とともにビジネスにおける「情報収集」の重要性についてみていきます。

「まもなく交渉が決着する」と期待したところ…

直ぐに

 

「およそXX万ドルだよ」

 

と、ことのほか簡単に教えてくれました。それは現在E国サッカー協会がD氏に提示している金額と同じ金額でした。

 

私は即座にその事実を交渉担当者に伝え、これでまもなく交渉が決着すると期待しました。それから数週間が経ち、交渉担当者と廊下ですれ違ったときに、

 

「そういえば、あの案件は折り合えたのかな?」

 

と聞いたところ、まだ双方の主張が平行線のままで暗礁に乗り上げてしまっているとのことでした。

 

私は少し驚きました。交渉担当者曰く、双方とも歩み寄ろうとしないとのこと。私の見立てではE国協会の収入規模から判断して、大幅に代表監督に支払う報酬額をあげる可能性は少ないと思っていました。

 

ここはD氏にかなり譲歩してもらわないと交渉は妥結しないだろうと思っていたのですが、交渉担当者曰く、D氏を納得させることができないでいるとのことでした。

 

そこで私は、交渉担当者にもう少し情報をインプットし、状況を整理するのを手伝おうと思いました。以下が整理した事項です。

 

1.E国協会の年間収入は我が国のサッカー協会の10分の1以下であること。

 

2.E国の前代表監督と同じ報酬額をE国サッカー協会が提示していること。

 

3.D氏が要望している金額は我が国のJ1(Jリーグ1部)の中位のクラブの監督報酬レベルであること。その意味ではD氏が望外な要求をしているわけではない。

 

4.一方、日本の方がE国に比べてサッカー指導者に支払われる報酬レベルが明らかに高い。

 

5.E国のサッカー協会が提示している金額はJ1(Jリーグ1部)の下位のクラブの監督報酬のレベルであること。

 

6.D氏に監督として来てほしいと考える日本のクラブがその時点でいるかどうか?日本のリーグ戦が既に2か月前に開幕していたので、その時点で現監督を解任してD氏に監督職をオファーするクラブが出てくる可能性はかなり低いこと。

 

以上を勘案すると、D氏に全体の状況をきちんと説明してE国サッカー協会の現在の提示額が彼らにとっての精一杯の金額に近いことをご理解頂く他ないのではというのが結論で、交渉担当者も同意していました。

 

その翌日だったか、期せずしてE国サッカー協会の幹部から日本サッカー協会の幹部に直接電話が入り、幹部同士の話し合いで、案の定E国の提示額に近い金額で交渉が妥結する流れができたのです。

次ページこの案件で「何よりも重要なポイント」

※本記事は幻冬舎ゴールドライフオンラインの連載の書籍『ビジネスパーソンのための超実践的交渉術 ⽇本⼈の交渉のやり⽅』(幻冬舎MC)より一部を抜粋したものです。最新の法令等には対応していない場合がございますので、あらかじめご了承ください。

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