肩関節は「筋腱と靭帯のスクランブル交差点」
そこで、肩関節周囲の軟部組織は安定性を高めるために進化し、肩関節は関節のなかでも筋腱、靭帯等が最も多く走行するようになりました。複雑に交差しているさまは「筋腱と靭帯のスクランブル交差点」といえます(そのため、我々整形外科医師は覚えるのが大変です!)。
このように、たくさんある肩関節の筋腱のうち、今回は、安定性に関連する重要な軟部組織と筋腱等について説明します。
1.関節唇
小さい関節窩の安定性を高めるために、関節窩全周には「関節唇」と呼ばれる特殊な軟骨があります。股関節の関節唇と同様に、骨頭との接触面積を広め、関節内を陰圧にして安定性を高めています。
2.上腕二頭筋腱長頭
上腕二頭筋の長頭は、関節内に入り、骨頭の上を走行して関節唇の上端に付いて骨頭が脱臼しないように抑え込んでいます。股関節には骨頭靭帯があり、膝関節には十字靭帯が関節内にありますが、腱が関節内にあるのは肩関節だけです。
しかし、野球、バレーボール、テニスなどで激しいオーバーヘッドモーションを繰り返すと、上腕二頭筋腱長頭の付着部である関節上方の関節唇がはがれる損傷(SLAP損傷)が起きてしまうことがあります。
3.烏口肩峰靭帯
烏口突起から肩峰にかかる厚い靭帯です。側面からわかるように、骨頭の前上方には骨がないため、骨頭の脱臼を防ぐ重要な働きをします。
4.回旋筋腱板(ローテーターカフ)と肩峰下滑液包
棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋の総称で、腱が板状になって上腕骨に付くことから腱板と呼ばれています(筋肉の両端にあるのが腱で、靭帯には筋肉はありません)。
特に肩峰と骨頭との隙間を通って骨頭外側に付く棘上筋腱板は腱板断裂の好発部位とされています。腕を挙上した際に、棘上筋の腱板は肩峰と骨頭とのあいだで挟まれるため、損傷しやすいのです(インピンジメント症候群)。
腱板損傷の原因としては、まず野球やテニスなどのオーバーヘッドモーション、あるいは重量物挙上のスポーツ愛好者が挙げられます。そのほかにも、40歳以上になると老化と肩の反復動作(軽いスポーツと洗濯、布団の上げ下ろしなどの家事)によって起こる危険性があります。「腱板が断裂すると、腕が90度以上挙上できない」ので、参考にして下さい。
若い方の腱板損傷は縫合修復が可能ですが、高齢になると腱板は雑巾のように擦り減って縫合修復が困難になりますので、頑固な痛みと挙上困難な高齢の方は早めのMRI精査をおすすめします!
また、腱板を保護するために肩峰下滑液包がエアーバッグとして存在しますが、この肩峰下滑液包も肩関節痛の原因となります。
このような烏口肩峰靭帯、腱板、肩峰下滑液包等が連携した軟部組織は、骨頭を上方から抑え込み脱臼しないように作用していますので、「第2の肩関節」といわれています。ちなみに「第1の肩関節」は肩甲上腕関節です。
ここまで解説してきたように、肩関節痛と運動痛の原因は、軟骨の摩耗よりも軟部組織の損傷であることが多いため、痛みが出た際には適切な診断と治療が必要になります。
5.その他
烏口突起には上腕二頭筋短頭と大胸筋が付着していますので、重量物を持つ、などをしたあとに痛みが起こることがあるものの、疾患としては見落とされることも少なくありません。
烏口突起を抑えると局所に圧痛がでることで、肩関節痛と鑑別することができます。
このように、肩関節は運動性を優先しているため不安定ですが、弾力性のある筋腱、靭帯等によって複雑で巧妙に、かつ繊細に守られた「ガラスの関節」だといえます。
この繊細な関節を酷使するのではなく、優しく使いましょう。そうすることで、大好きなスポーツも、健康的に長く楽しめるかと思います。
★今日の教訓★
肩は「ガラスの関節」です。優しく付き合いましょう!
三上 浩
医療法人 医仁会
高松ひざ関節症専門クリニック 院長