EVに対する「走行距離課税」の導入は許されるか
では、ガソリン税に関する以上の経緯を踏まえ、EVに対する走行距離課税を導入することは許容できるでしょうか。
今回、鈴木財務大臣がEVで走行距離課税を正当化しようとしている論拠は、以下の2点です。
1. EVにはガソリン税のような燃料に対する課税がない
2. EVは車体が重いため、道路の維持補修の負担が増大する
これらのうち、「1. EVにはガソリン税のような燃料に対する課税がない」はガソリン車の「厳しい財政事情」と同様あまり内容がありませんので、重要なのは、「2. EVは車体が重いため、道路の維持補修の負担が増大する」ということです。
この理屈だけみれば、一見、正当性があるようにも見受けられます。
しかし、法制度は、既存の法制度と整合性のあるものでなければなりません。その観点からは、2つの問題があります。
問題点1. ガソリン車にも走行距離課税を導入するのか
問題点2. 自動車重量税との整合性がとれない
それぞれについて説明します。
問題点1. ガソリン車にも走行距離課税を導入するのか
まず、ガソリン車にも走行距離課税を導入するのかということです。
道路に対する負荷であれば、ガソリン車もその重量の分だけ、同様に道路の維持補修の負担が増大するのはEV車と変わりません。
また、もしガソリン車もEV車も同様に走行距離課税を導入するのであれば、ガソリン車はこれまでより負担がさらに増大することになります。
問題点2. 自動車重量税との整合性
次に、ガソリン車にすでに課税されている「自動車重量税」との整合性です。
自動車重量税は、自動車の重量に応じて課税されています。
これは、重量が重い車ほど道路に対する負荷が高いため、補修のための費用負担も大きくすべきという理由によるものです。
走行距離課税の理由が、EVの重量が重いからということであれば、自動車重量税との整合性が問われることになります。
このように、EVに対する走行距離課税については法的観点から問題があります。しかも、EVを購入する人は、EV補助金の点はもちろん、ガソリン税がかからないことも重視して意思決定を行っている可能性が高いといえます。
そうであるにもかかわらず安易に「走行距離課税」を持ち出すのは、EV補助金をエサとしてEVへの増税を企てているとみられても仕方ありません。
さらに、本記事では取り上げませんでしたが、「エコカー減税」「クリーン化特例」のような優遇税制との整合性も問題となりえます。
政府が「EV補助金」等の施策を通じて、EV車の普及に本腰を入れて取り組むのであれば、自動車に関する税制について、全体の整合性を見据えた抜本的な見直しが迫られているといえます。
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