しかしながら、現実的に航空機業界をリードしている航空機はナローボディ機とワイドボディ機であり、これら100席以上の航空機を実質的に供給することができるのはボーイング社とエアバス社の2社に限られているのが現状です。
もちろん、ボーイング社とエアバス社以外の会社もこのカテゴリーに参入しようと開発を続けていますが、航空機の開発には巨額の資金と高い技術力、そして許認可を取得するノウハウが必要であり参入障壁は非常に高いのです。
ボンバルディアとエンブラエルそして中国商用飛機がナローボディ機の開発に精力的に取り組んでおり、一部の機種は実務運用レベルに達し始めていますが、許認可や実績、量産体制など超えなければいけないハードルは数多くあり、いまだにボーイング社とエアバス社トップ2社の脅威となる段階ではありません。
日本企業の航空機製造、世界の位置づけは?
超えなければならないハードルが数多くあり参入障壁は非常に高いと書きましたが、三菱航空機のスペースジェットを例に挙げると、当初は2013年(1)に初号機を納入する計画でしたが開発が遅れ、納期を6度も延期していました。そして2020年10月以降、事実上の開発凍結状態にあります。
日本の製造業は世界でトップクラスの実力と実績を持っていると思いますし、航空機製造の分野においても素材や部品などで日本企業の貢献は高く、もはや航空機製造において日本の技術は必要不可欠であるといっても過言ではありません。
例えば、ボーイング社の最新鋭機であるボーイング787では機体構造の約35%を日本企業が担当しており、そのほかにも数多くの部品供給を日本企業が行っているため(2)、メイド・ウィズ・ジャパンと称されることもあるほどです。
しかしながら、それでも完成機を企画・設計・開発・生産することは容易なことではないのです。座席数が100席未満の小さめのジェット機ですらこれだけ苦労することからもわかるかと思いますが、座席数100席以上のナローボディ機やワイドボディ機の開発となるとそれがいかに難しいことかは想像に難くありません。
小さめの航空機の開発ができれば後は大きくするだけなので、リージョナルジェットの開発に成功したらすぐにナローボディ機やワイドボディ機の開発を手掛けることができるのではないか? とご質問される方も少なくありませんが、航空機はほかの移動手段(船舶や自動車、バスなど)とは異なりキャパシティを大きくすることは容易なことではありません。
航空機を大きくするのが難しい理由をシンプルに説明すると、例えば2倍大きな航空機を作ろうとすると、体積(≒重量)は8倍に増加する一方で揚力を生む羽の面積は4倍に留まります。
したがって、強力なエンジンを開発するとともに、ボディーは剛性を保ちながらより強く、より軽くと相反する技術的課題を解消していかなければならないのです。技術的な難しさに加え、参入コストが非常に高いことも参入障壁の一つとして挙げられます。
(1)スペースジェットは初期構想では2007年にロールアウト、2009年に型式証明取得・運用開始のスケジュールでスタートしたが、スペースジェットの名称が決定し専門業者(三菱航空機)を設立した後の計画では2011年初飛行、2013年デリバリー予定と発表。その後、設計の見直しに伴い2012年第2四半期の初飛行、初号機デリバリーは2014年第1四半期とスケジュールが変更された。またさらに2020年10月以降、計画はすべて事実上の凍結となっている。
(2)航空機部品の世界でも日本企業の活躍はめざましく、大手企業だけでなく多くの中小企業も存在感を増している。航空機で使用される部品はOEMより高いスペック(重量、耐久性、耐火性等々)が求められ、徹底したテストと品質検査に合格する必要があるが、その対象は小さな部品にまで及び、小さな部品であっても開発競争は激しい。日本の中小企業の活躍の例として、座席の上の棚には中を見渡せるようにミラーが貼ってあるが、日本のコミー株式会社(埼玉県川口市)がその高い品質と機能によってOEMの厳しい認可を勝ち取り、現在は機内荷物棚用ミラーの100%近いシェアを占めている。